一般財団法人 国際協力推進協会
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第11回「ハイチ便り」(最終回):ハイチの文化(食材や食文化について)


寄稿:元在ハイチ日本国大使 八田 善明

 ハイチは、(ハイチ)クレオール料理でも知られています。その歴史と自然の恵み、文化の交流するところでもあり独自の食文化が発展しながら根付き、さらに革新を加えながら発展を続けています。

 ハイチ・クレオールと呼ばれる、歴史的な経緯からのフランス系の要素と先住民のもの、そしてアフリカから持ち込まれたものが混ざり・かつ伝統が維持されながらできあがった一つの食文化です。

 これらのベースに加えて、スペイン的なもの、他の中南米でも見られるものや最近ではアメリカなどの影響も受けつつ、日常の食事からレストランで楽しむグルメの域までその裾野は広がっています。

 また、クレオール料理に加えて、ハイチを代表する「食材や食品」にはそれ以外にも特徴的なものがありますので、合わせて御紹介してまいりたいと思います。


<パート1:世界ともつながりのあるハイチ産品や原料>

 直接であったり、間接であったり、歴史的にであったりと実は知らないところでハイチと関係のあるものを口にしているかも知れません。以下に少し御紹介します。

【砂糖とサトウキビ】

第11回「ハイチ便り」
(サトウキビ)

 ハイチは、日頃我々も御世話になっている「砂糖」の発展史に残る重要な国です。当初アジア起源のサトウキビは後にヨーロッパに伝わり、この栽培地を求めてアフリカ等に進出しましたが、ご存じのコロンブスが1493年の第二回目の航海の折に苗をイスパニョーラ島にもたらしたのがカリブにおけるサトウキビの起源とされています。その後時を経てプランテーションとしてフランスの経済を大きく支え、かつ現代に花開く各種フランス・欧州菓子の下支えをすることになります。ハイチで作られた砂糖がなかったら、もしかするとチョコレートやケーキ、タルト等は今の形で存在していなかったかも知れません。

 今でもサトウキビ畑は主要な産地に広がっており、その生産量は過去に比べればかなり減っているもののメジャーな農産物ではあります。サトウキビそのものもリヤカーに満載され、道ばたでカットして売られています(繊維質ですが、そのまま噛むと甘いジュースが楽しめます)し、産地ではサトウキビをアトリエに持ち込み、ジュースを絞って、何段階もかけて煮詰めて黒糖にしたりしています(ハイチでは、ラパドゥ(Rapadou)といい、棕櫚で巻いて保存します)。

第11回「ハイチ便り」
(ハイチの黒糖ラパドゥ)

【ラム(酒)とその兄弟】
第11回「ハイチ便り」
(ハイチを代表するラム酒メーカー・バーバンクール社の150周年記念ボトル)

 サトウキビがあるところにはラム(Rhum/Rum)がある、と言えるかと思います。中南米・カリブ諸国でサトウキビ・プランテーションがある国々にはそれぞれにラムがあります。その多くは、サトウキビのジュースを煮詰めて砂糖を結晶化させた後に残る糖蜜(メラス(フランス語)、モラセス(英語))を原料として、これを発酵(アルコール化)させて、蒸留するプロセスによるものですが、ハイチの代表的なラム酒メーカーであるバーバンクール(Barbancourt)では、サトウキビのジュースから直接発酵・二段蒸留過程を経る方式でやってきています(アグリコールラムと言われる)。ラム酒は、ほとんどそのまま瓶詰めして出荷されるホワイトラム(透明)がありますが、さらに木の樽で熟成させるものもあります。

 オークの樽で何年も寝かせると味は丸くなり香りも甘くしっとりとして、ブランデーと同じように「味と香」を楽しむことができます。バーバンクール社は、200年以上の歴史があり、古くからの樽もあるみたいですが、その貯蔵庫も2010年の大震災時に被害にあったとかで、その収拾も兼ねて、幾つかの樽をブレンドして150周年記念ボトルが売りに出されたとのことです(少なくとも40年以上寝かせた樽のラム酒がブレンドされているとか。)。

 また、小さい蒸留所(500件以上との説も!)で、同じ材料からほとんど同じようなお酒を蒸留しているものがあり、これらはクレラン(Clairin)と呼ばれています。いわゆる地酒として広く楽しまれていますが、時折規定外の混ぜ物をした粗悪品が出回るらしく、集団で亡くなる、いたたましい事件が発生したりしています。

【グラン・マルニエ】
 西洋菓子作りやカクテルに欠かせないオレンジリキュールの「グラン・マルニエ(Grand Marnier)」や「コアントロー(Cointreau)」はフランスを代表するリキュールですが、実は、その材料であるビター・オレンジ(使われるのは皮だけです)はハイチ産の「シトラス・ビガラディア」であり、その風味からハイチ産でなければならないといった材料で、味と伝統を支えているといっても過言ではありません。この苦みと風味のある柑橘類はハイチの北部で栽培されており、グラン・マルニエは全量が、コアントローはブラジル産のものと半々で作られ、風味が異なります。実はこんなところでもハイチの御世話になっている(知らずに食べているお菓子やカクテルの方でも)ということです。

【コーヒー(やカカオ)】
第11回「ハイチ便り」
(天日干し中のコーヒー豆・焙煎中のコーヒー・(右下は)カカオ)

 ハイチもコーヒー豆の産地であり、古くは1726年にマルティニークからフランス人が持ち込んだとも言われています。コーヒー豆では高級種と言われているアラビカ種でもその源流の一つであるティピカ種が多く栽培されており、バランスのとれた香良くほどよく柔らかい甘みとコクのある美味しいコーヒー豆を産します。実は、ハイチでは、1700年代後半には全世界のコーヒー生産量の半分を産出したと言われているほど商品作物として重要な位置づけにありました。その後生産量は減り続け、さらに病気により生産量は激減したと言われており、またハリケーンの影響や温暖化の影響なども受けて生産量自体は限られる面もありますが、今も各地で栽培に取り組むなど新しいチャレンジもしている模様です。ドリップしてもいいですし、適度の酸味もあり、エスプレッソでもバランスとアフターがあり大変美味しいです。


<パート2:ハイチ・クレオール料理>

 ハイチにおけるクレオール料理・日常食などを中心に主なものを以下に御紹介します。

【スープ・ジュムー】
第11回「ハイチ便り」
(スープ・ジロモン(具沢山のカボチャのスープ))

 ハイチの伝統・文化的&歴史的な意味で避けて通れないのは「かぼちゃのスープ」でしょう。1月1日の独立記念日に食べるスープ・ジュムー(Soup Joumou: クレオール)/スープ・ジロモン(Soupe Giraumon: フランス語)という具沢山、牛肉も入ったかぼちゃ・スープです。

 諸説あるかと思いますが、簡単には、フランスの入植者達が食べていたもので、当時の奴隷には食べる権利がなかったという時代を経て、1804年の独立を機に、新自由人がその象徴(特権階級であったフランス人入植者と対等を意味するものとして)としてスープ・ジュムーを食し、また、建国の祖ジャン・ジャック・デサリーヌの妻、マリー・クレール・ウールーズ・フェリシテ・ボヌールが、滋養に満ちたこの具沢山のスープを1月1日に食するように広めたとされています。かぼちゃベースのスープですが、牛肉が入っているのが特徴の一つと言えるかと思います。入れる野菜は各人・各御家庭の好みや味がありそうです。野菜は、ジャガイモ、にんじん、カブが標準のようで、香味としてセロリも入っていることがあります。

 いずれにしても国民食でありハイチ人のコミュニティにおいても欠かせないもののようです。大きなハイチ人コミュニティがある米国フロリダ州のマイアミにおいても1月1日を前に新聞のマイアミ・ヘラルドにもスープ・ジュムーの記事が掲載されたりしています。

【グリオ(Griot)】
第11回「ハイチ便り」
(グリオ(豚肉のディープ・フライ))

 ‟豚肉のカリカリ揚げ”という感じでしょうか。豚肉がしっかり揚げてあるハイチの主力料理です。グリオを作るには、ちょっとした下ごしらえがあり、これが特徴的なのではないかと思います。ポークのショルダーをシチュー用前後の大きさに切りわけ、‟ハイチの(重要!)”柑橘類でその肉を洗い、適宜好みでつけ込みます。その上でハーブや香辛料につけて味付けをし、炒るか炙り、そして仕上げに深く油で揚げます。しっかり茶色に色のついたグリオは、外側はカリカリで中は柔らかく美味しいです。ちょっとピリ辛に仕上げるのがクレオール流でしょうか。典型的な盛り付けは、ピクリーズ(Pikliz)という野菜の唐辛子(Piment Bouc)漬け(みためは浅漬けのようですが、かなり辛いです。間違っても付け合わせのサラダだと思って纏めて口に入れてはいけません。少しを肉(グリオ等)に味付けとして合わせて食べるものだと思います。)後はお米か食用バナナが付いていることが標準的です。

【ディリ・(アク)・ジョンジョン(Diri (ak) djon djon)】
第11回「ハイチ便り」
(ディリ・ジョンジョンの左上は通常の付け合わせ、左下は少しきどったレストラン風、右上はジョンジョン・スパゲティ、右下は乾燥ジョンジョン茸)

 ハイチの伝統料理の一つがジョンジョン風味のライスです。濃い灰色から黒っぽいご飯なので、初見ではイカスミのご飯?と思わなくもなく、キノコだと解るまでにはしばらくの時間を要しました。ハイチの北部で採取されるキノコの一種で乾燥して販売されています(キクラゲのフレークのようなイメージでしょうか)。この調理法も一手間あり、乾燥したジョンジョンをボウルに張った水につけて一晩寝かすと灰色に色が出るので、そこで細かいのが混じらないように網等でキノコを取り除き、灰色の汁を調理に使います。キノコ本体は、全部捨てると聞きました。その灰色の汁を使って、米を炊けばディリ・ジョンジョンですし、今風であればパスタソースにアレンジしたり、肉(鶏肉など)のソースとしても使えます。なかなかコクと旨味がのって美味しく、ハイチを去るとかなり懐かしい味の一つです。なお、最近のレシピでは、ジョンジョンを水に浸すのではなくミキサー等でそれ自体をソースに仕立てるというのもありそうです。このジョンジョン茸はどこででも生えているわけではなく、まだ栽培もできていない(らしい)もので、ハイチ以外には聞かないハイチ・オリジナルな素材だと思われます。

第11回「ハイチ便り」
(リ・ナショナル)

 なお、地元産の米に豆を入れて炊いたものは、リ・ナショナルと言って、付け合わせのご飯として不動の地位を築いています。なお、リ・ナショナル自体は、オーガニック・ブームにものって欧米等で、高値で売買されていて、必ずしも生産地で安くは売られていないとも聞きます。

【ランビ(Lambi)】
第11回「ハイチ便り」
(ランビ・クレオール)

 周りが海で囲まれているので、スズキみたいな魚、伊勢エビなども捕れますが、海が暖かいのと漁業がそれほど発達していないこともあり、ここでも、大きな巻き貝のランビが(ハイチだけでなく)カリブ海周辺の名物です。コンチ(貝(Conch:英語))ともいいますが、直径数センチ程度になる身を、そのままだと歯ごたえもありすぎるでしょうから、細長く切ったり裂いたりして調理(味付け)して供します。ここでピリ辛のソースで調理したものはクレオール風ということで、「ランビ・クレオール」となります。思えば、007シリーズ初回のドクターノオのオープニングで、海岸で美女が貝殻を拾っているのがランビ貝だと思います。

【アクラ(Acra)】
第11回「ハイチ便り」
(アクラとマランガ芋)

 マランガ芋(タロイモの一種?)をすり下ろして、団子や棒状等にして油で揚げたものですが、外はサクッとして中はほかほか、あっさりとろっとして美味しいです。揚げ物ですから、ビールのつまみには最高です。適宜ハーブを入れたりもしますが、さながら青のり風味の感じになってこれも美味しいです。

【バナヌ・プゼ(Banane pesee)】
第11回「ハイチ便り」
(左側の付け合わせの黄色いのがバナヌ・プゼ(料理自体は鱈のコロッケ))

 いわゆる食用バナナ(生食はしない)であるプランタン・バナナも付け合わせとして良く出てきます。輪切りに切って、二枚の板でこれをつぶし広げ(つぶすので、周りがぎざぎざの4~5cmの輪切りになります)、揚げて出てきます。単純ですが、やはり外がさくさく、中はほっこりしているのが美味しいです(固いだけで唾が足らなくなるのもありますが)。

【その他の料理や食材】
 以上、代表的な料理等を挙げてきました。この他にも、カブリ(アフリカでも見かける山羊の一種)や牛肉を先ほどのグリオの様に調理したものは、タソ(Taso/Tasso)と呼ばれて、これもポピュラーです。また、海辺では、ロブスター、タコ、魚も良く食されます。

第11回「ハイチ便り」
(魚料理も多くはないですがあります(黄色いのはバナヌ・プゼ))

第11回「ハイチ便り」
(パンの実(右側はスライスして揚げたもの))

 ハイチでは、野菜としてはゴンボ(オクラ)やパンの実なども見かけます。フルーツは、柑橘類は種類が多く、バナナも美味しく、また、どこにでもマンゴーがなっています。さらには、標高が高い高原もあり、そこではイチゴも栽培しています。

第11回「ハイチ便り」
(どこにでもあるマンゴーやアボカド、右上はモンセルのイチゴ、下は街道沿いのバナナ・柑橘類)

第11回「ハイチ便り」
(街中の椰子の実売り:ココナッツ・ウォーターのため)

 ココナッツも路上で売っており、その場で、マシェット(鉈)で端を切り落とし飲み口を作ってくれます。丸ごと冷やして飲むココナッツ・ウォーターは、実の熟れ具合等で量も味も(甘みやくせ(旨味?))異なり色々と楽しめます。

第11回「ハイチ便り」
(ビール工場とプレスティージ・ビール)

 食材ではないですが、ハイチのビールもあり、プレスティージ(Prestige)は日本人好みの飲みやすいキレの良いビールです。

 また、美容と健康の面では、モリンガとヴェティバーにも注目かも知れません。


(※写真は全て筆者が撮影)
(※本コラムの内容は、筆者の個人的見解であり、所属する機関の公式見解ではありません。)



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