一般財団法人 国際協力推進協会
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第2回「ハイチ便り」:ハイチ共和国とは


  ~ ハイチ社会事情一般について ~

寄稿:元在ハイチ日本国大使 八田 善明
第2回「ハイチ便り」
(入り組んだ海岸線 ハイチ南部)

 前回は、ハイチの歴史的経緯から現状までを足早に概観しました。今回は、よりハイチを理解する前提となる社会事情や人々の日常・生活感についてもう少し掘り下げておきたいと思います。

◆ハイチの国名

 先ず、国名のハイチは、日本語ではハイチですが、フランス語:Haïtiでは、読みの上ではアイティ(チに近い短いティ)になります(フランス語では、Hの音(ハ行と派生の音)がないためです)。クレオール語:Ayitiもアイチですが、フランス語とは若干トーン・イントネーションは異なります。ハイチ(アイチ)は、「高い山の地」を意味する専ら先住民のタイノによる島の呼称を独立時に採用したもので、その名のとおり、国土的にも思いの外高い山(ハイチでは2,600m)があるなど、起伏に富んだ地形をしています。


◆地域で唯一のフランス語国

 ハイチでは、歴史的過程で、アフリカ系の言語にハイチの元々の住民の言語、フランス語、スペイン語、そして英語も単語ベースで入ってくるなどによって(ハイチ)クレオール語が形作られてきました。そのため、ハイチではほとんどの人が日常語としてクレオール語(Créole(仏)、kreyòl(クレオール))を話しますが、公用語になったのはかなり後になります(憲法レベルでは、1987年)。

 それまでの公用語はフランス語のみで、中南米地域においては唯一のフランス語公用語国です。逆に、スペイン語や英語が主流の中南米地域においてやや肩身の狭い思いをしている面もあります。例えば、英語がメインの「カリブ共同体(CARICOM)」では、後発で2002年に加盟したハイチは、フランス語も公用語に加えるべく働きかけを行って来ています。2013年の元マルテリー大統領時代には、フランス語を公用語とすることについての「決議」まではこぎ着けましたが、これを実際に公用語として採択するには至っていません。丁度2018年前半は、ハイチが2回目のCARICOMの持ち回り議長国(6か月間)であったことから、モイーズ大統領がフランス語公用語化についても主張しましたが、費用・マンパワーが大幅に増えるといった現実的な問題もあるためか、まだ公用語化の実現の目処はたっていなさそうです(★ハイチがホストした首脳会議では、自前でフランス語の同時通訳を導入する等努力をしています)。なお、今回のCARICOMでは、フランス語だけでなくクレオール語(とオランダ語)についても公用語にするべきと要請しました。このような多言語・多様性主義による理想は、欧州連合(EU)にもその理念と実践がみられ、フランス語国の一つとしてハイチがそれを主張するのは自然とも言えますが、一定程度は受け入れられても現実的問題により課題に留まるところが興味深いところです。また、米国との距離も近く、米国には大きなハイチ人コミュニティもあり往来も盛んなので、よりアメリカベースの生活をしている人同士では英語を日常的に使う人も増えていると思われます。また、隣国や中南米地域との関係もあるので、スペイン語を使用する人もいます。


◆ハイチの気候と自然

 ハイチは、気候的にみた場合、熱帯海洋性気候で、日中の直射日光下はかなり暑くなりますが、日本の夏のように夜も暑い時期はおそらく7、8月の二か月が中心で、その前後は夜も暑く感じる時期はありますが、それ以外の雨期等は日没以降気温も落ち着き、明け方は寒い位のこともあります。あまり地域によって気候の差があるようには感じませんが、標高によってかなり異なります。ポルトープランス(Port-au-Prince)から富裕層の活動する隣町のペチョン・ビル(Pétion-Ville)まで上ると既に標高は400メートルを超え、温度にして2度近く下がります。さらに上ると高級住宅地の一つであるモルヌ・カルベール(Morne-Calvaire)等になり、さらに数度温度が下がります。そのまま南下してフュルシー(Furcy)方面へ山の方(セル(Selle)山脈)へ向かい、標高1,500メートル前後のところには別荘もあるような冷涼な地域(ケンスコフ(Kenscoff))もあり、首都圏への野菜の供給地にもなっています。季節にはイチゴ等も出荷するなど、それら野菜のクオリティや種類は年々改善されてきており、同地域ではやっていなかったコーヒーの栽培にもチャレンジしようといった話も聞こえてきます。

 また、沿岸部では、期待どおりカリブ海のビーチがあります。ただし、海岸線はそれなりに入り組んでおり、必ずしも砂浜のビーチだけというわけではありません。なお、海岸線を航空機の窓から見た印象では、アクセス道もないことから手つかずの海岸線も多々あり、乱開発さえしなければ観光資源としてのポテンシャルはとても高いものと思われました。


第2回「ハイチ便り」
(ケンスコフの山岳地域)


◆ハイチの交通

 ハイチでは、国土を10の県に分けて行政が敷かれており、首都ポルトープランスは馬蹄形の国土の奥、ゴナーヴ湾の奥に位置し、それなりに良好に舗装された幹線道路により中央・北部や南部の一部主要都市と接続がなされています。なお、高速道路はなく、鉄道に至っては、郊外・市街地共に今はありません。自家用車を持っている人以外の主要交通手段は、タプタプと呼ばれる乗り合いタクシー(バス)か、バイクタクシーになります。そのほか、大型の観光バスも大都市間や隣国のドミニカ共和国を結んでいます。タプタプは、市街地ではピックアップの荷台を改造してベンチシートを両脇に配した後ろから乗降車する乗り合い自動車で、サッカー選手や歌手、キリスト教の文言等ペンキで極彩色に思い思いの装飾が施され、郊外や都市間を結ぶ大型のマイクロバス型のものもあるようです。バイクタクシーは、運転手と2人乗り~4人乗りで移動する手段となっており、タプタプよりも乗車賃は割高になりますが、女性も通学の子供も関係なく普通に利用しています(運転手入れて最高7人まで目撃したことがあります)。圧倒的に中国製が多いこのバイクタクシーは、かなりの山道、砂利道でも3~4人乗りで移動して行きますので、効率は(かなり)良いとは言えますが、良くあのタイヤで!と、感心や、はらはらのし通しです。首都圏では逆に、個人のオートバイ、自転車はあまり普及していない印象ですが、地方都市になると学生も含めてオートバイ率が高くなる印象です。


第2回「ハイチ便り」

第2回「ハイチ便り」
(タプタプ)

第2回「ハイチ便り」
(バイク3人乗り)

ハイチ共和国 行政地図
(ハイチ共和国 行政地図) ※クリックで拡大


◆ハイチの一般建築

 建築は、所得層によって大きく差が開きます。スラム等の貧困層では、木の棒になんらかのシートやトタン板をつけた小屋か、ブロック積みの壁にトタン板を打ち付けた小屋等が多いです。都市部の建築物となれば、南欧等でもよく見られる、鉄筋コンクリートの柱にコンクリートの床を構築し、さらに次の階の柱を立て、といった手順でビルを建て、後から壁をコンクリートブロックで埋めていく建築が多く見られます。なお、建築現場を見ている感じでは必ずしも耐震性が十分でないように思われる建築も多く感じられます。また、屋根はトタン屋根が多用され、コンクリートやブロックの壁の上に角材で骨組みをやぐら状に組み、その上にトタン板を張っていく方式が多く用いられています。壁と屋根の間に通気用の隙間があることが多く、また、窓には格子のみでガラスが最初から入っていない建物も多く、ガラスやサッシが入るのは一定の収入があるような家になります。これらの家屋は、気候との関係で、ほとんどの季節において風が抜けて快適に過ごせる造りとも言えますが、ハリケーン等の際には強風が窓から吹き込み、屋根を中から持ち上げてしまうためか、屋根が吹き飛び壁だけが残っているような被害が多く見られました。ある意味、トタン屋根は被害後の復旧も早いと言えば早いですが、屋根が飛ばされると雨水による浸水もひどく、それだけ復興も遅れ、かつコレラ等も含めて病気が蔓延しやすくなりますので、環境として脆弱と言えます。

第2回「ハイチ便り」
(スラム街)

第2回「ハイチ便り」
(標準的な屋根(トタン)。地方の学校の教室)

第2回「ハイチ便り」

第2回「ハイチ便り」
(地方農村部の家)


 以上、気候、交通、一般の住居等、生活の様子の一部を御紹介して参りました。まだまだ生活面だけでも述べ足りないですが、次回は趣向を変えて別のテーマにしたいと思います。


(※2018年時点での執筆記事)
(※写真は全て筆者が撮影)
(※本コラムの内容は、筆者の個人的見解であり、所属する機関の公式見解ではありません。)



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