一般財団法人 国際協力推進協会
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インタビュー:村上洋 APIC理事(味の素株式会社 社外監査役)

インタビュー:村上洋 APIC理事(味の素株式会社 社外監査役)

APICが年2回発行している会報誌では、APICの活動を支える理事・評議員へのインタビュー「APIC役員に聞く」を行っております。今回は、村上洋APIC理事(味の素株式会社社外監査役)にインタビューをお願いし、ご自身の経験に基づいた国際協力への見解と、若い世代へのメッセージについてお聞きしました。【2018年2月19日実施。聞き手:APICインターン生 山本(上智大学)】


Q1・APICの理事に就任されたきっかけはなんですか。また、理事として特に重視されている活動があればお聞かせください。

学校法人 津田塾大学の理事会の方たちがAPICの理事の方たちと親交があり、連携協定を結んではどうかと、引き合わせて下さったのがきっかけです。

私は40年近く東レ株式会社に勤務していましたが、そこで海外事業全体を統括する国際部門長という立場にいたとき、月に1回APICの早朝講演会に参加させて頂いていました。佐藤嘉恭理事長、佐藤昭治常務理事と懇意にさせて頂く中で、これまで官職についていらした方が中心だった理事会の運営に、ビジネス界出身者にも参加して欲しいとお話を頂きました。まだ就任して1年余りですが、国際協力をグローバルビジネスの視点で見る立場として少しでも貢献できればと考えています。


Q2・学生時代、ご自身の将来についてどのようにお考えでしたか。

私が学生時代を過ごした70年代前半は、まだ60年代に盛んだった学生運動の名残が残っていました。今のように真面目に授業に参加する学生も少なく、試験前にはストライキがあったので学生時代に試験を受けたことは一度もありませんでした。その分、サークル活動や自主的な勉強会、あとはアルバイトや旅行などをして結構気ままに過ごしていましたね。自分の将来についても、今のように就活が大変でなかったこともあって、あまり真剣に考えていなかったような気がします。しかし、今振り返ってみると無意識のうちに東レが企業理念としている「新しい価値の創造を通じて社会に貢献する『ものづくり』」には魅力を感じていたようです。複数の「ものづくり」企業を訪問し、一番フィーリングのあった東レに入社しました。

インタビュー:村上洋 APIC理事(味の素株式会社 社外監査役)
(インタビュー中の様子)

Q3・40年近く東レ株式会社に勤務し、入社後まもなく日本初となるプラスチックペットボトルの企画にも携わっていたと伺いました。入社当時と比較して、現在の日本企業にはどのような傾向がありますか。

入社当時はアメリカでコーラの容器としてペットボトルが使われ始めたころでした。日本でも各社が開発を急いでいて、私は入社して最初の仕事で「ペットボトル用材料の事業化」の企画書を書く仕事を担当しました。今では、日本だけでも何百億本というペットボトルが出回っていますが、その1本目が私が書いた企画書から始まったということは、私のサラリーマン人生の中でもちょっとした自慢の種になっています。

東レは60年代にタイやインドネシアなどの東南アジアに進出し繊維の生産を開始しましたが、欧米に進出するようになったのは80年代以降、中国は鄧小平さんの「改革開放政策」が始まった90年代以降で、それから一気にグローバル化が進展しました。このような時代だったのでまさか自分が海外に行くとは思ってもいませんでしたが、担当していた製品がアメリカに進出することになったのをきっかけに自分もグローバル化の波に巻き込まれていき、計12年アメリカに駐在することになりました。今の学生さんにとっては、「社会に出る=グローバル化と向き合う」ことだと考えています。日本企業も全てをグローバルベースで考えなければいけない時代になっています。


Q4・アメリカ勤務やアジア・新興国事業拡大プロジェクトの事務局長のご経験があると伺いました。グローバル企業が増加する一方で、人権リスクなどの様々な問題点を抱えているという報道も数多く見られます。日本企業は海外進出をするにあたりどのような点を改善すべきだとお思いですか。

アメリカの駐在に加え、アジア・中東・ロシア・アフリカなど30カ国以上に出張しました。海外にある東レの会社に勤めている人が全体の6割を占めているので、自分も半分くらいの時間を海外で過ごす勢いで世界を飛び回りました。事業の進め方、マネジメントの仕方、人事や労務、どれを取ってみても日本のやり方をそのまま押し付けたのではうまくいきません。それぞれの国の文化、習慣、国民性にあったやり方を考えていく必要があります。そのためにも、海外で現地の政府やパートナーと良い協力関係を築きながら仕事をすることが大事だと考えています。

海外に進出してきた理由のひとつは安いコストで生産できることでしたが、現在は自社だけでなく取引先での児童労働や粗悪な職場環境など人権にかかわるような問題にも配慮しなければ許されない時代です。武装勢力に資金が流入する紛争鉱物を購入していないことの確認も求められます。このようにグローバルに仕事をするにあたっては、全てグローバル基準で物事を考えるのが当たり前になっていて、そのための人材の育成や社内の体制をとっていく必要があると考えています。


Q5・東レ株式会社が炭素繊維の普及において環境保全に貢献している例もありますが、日本企業は国際協力に対してどのように貢献していくべきだとお考えですか。

東レの企業理念は「新しい価値の創造を通じて社会に貢献する」です。東レの炭素繊維は飛行機や自動車の軽量化を可能にし、CO2排出量削減という面で社会に貢献しています。また、海水を真水に変えることができる水処理膜は水不足解決に貢献しています。アメリカに駐在しているときにこのような東レの事業活動が認められ、国連協会から社会への貢献が認められる企業や個人に与えられる、ヒューマニタリアン賞を受賞しました。私も受賞パーティに参加したんですよ。東レは「素材には社会を変える力がある」と考えて新素材の開発に取り組んでいます。あまり知られていませんが、東レがユニクロとヒートテックの技術を共同開発したという例もあります。 私が今社外監査役をしている味の素では、アフリカのガーナで国際機関や地元の政府、さらに大学などと協力して「KOKO Plus」を開発し普及する活動をやっています。現地の離乳食である”Koko”※1にこれを混ぜることで栄養不足に悩む乳幼児の栄養改善を図っています。今は社会貢献(CSR)活動としてやっていますが、軌道に乗れば味の素にとっても経済利益が生まれるようになります。このように、従来は社会価値だけが求められてきたCSR活動を通じて経済価値を生み出していこうというのがCSV※2(共通価値の創造)の概念で、今後企業が目指していく方向になっていくと考えています。企業は社会価値と経済価値を両立させながらサステナブルに社会に貢献していくべきだと考えています。

※1 発酵したコーンを用いたお粥のこと。
※2 Creating Shared Value の略称。

インタビュー:村上洋 APIC理事(味の素株式会社 社外監査役)
(2008年のヒューマニタリアン賞受賞式にて、右から潘基文(パン・ギムン)国連事務総長(当時)と榊原定征経団連会長(当時東レ社長))

インタビュー:村上洋 APIC理事(味の素株式会社 社外監査役)
(受賞パーティにてパン国連事務総長(当時)と握手をする村上氏)
(上2枚の写真はどちらも村上氏提供)

Q6・日本の国際協力における強みは何だとお考えですか。

東レや味の素のような「ものづくり企業」は、やはり「ものづくり」を通じて水不足、食糧不足、環境問題などの社会問題の解決に貢献することだと思います。ただ一企業の力だけでは限界があるので、官民学が一体になって活動していく必要があります。こうしたチームワークで物事を進めるのは日本の得意分野だと思います。官民学が連携したチームワークは、日本の国際協力における強みだということができるでしょう。


Q7・現在上智大学の客員教授としても活躍されていますが、ご自身が授業を展開していく中でグローバル人材を育成するにあたって学生に強調していることはなんですか。

上智大学では2つの授業を担当しています。1つ目は一年生向けの授業です。企業から講師を招き課題を与えてもらい、学生が企業の社員になりきりその課題を解決するためにディスカッションをし、発表をするという形式です。最終的にはコンペティションをするのでみんな意欲的に取り組んでくれています。2つ目は三年生向けの授業です。「ものづくり」企業の生い立ちやDNA、受け継がれている技術や新製品開発、グローバル化への取り組みなどを学んだうえで、今直面している問題やそれをどのように解決しようとしているのかを、できるだけ具体的に解説します。授業後にアンケートを取ると、90%の学生が「ものづくり」に対する見方が変わったと回答します。残された学生生活の中で、社会に出たときのために何をすべきかに気づいてもらえるような授業を心がけています。私自身会社を退職したら自分の40年間の東レでの経験を若い人たちにも伝えて役に立ちたいと思っていたので、上智大学客員教授のお話をいただきとても充実した日々を送っています。

これからの時代、望むと望まざるにかかわらずグローバル化の波を避けて通ることはできないわけですから、それを理解し、そこから「逃げる」のではなく、「受けて立つ」という気持ちになることを強調しています。「逃げるとせっかくの運も逃げていっちゃうよ」と考えると良いと学生にアドバイスしています。「受けて立つ」と決めたら、時間やチャンスに恵まれている学生時代のうちに自分に足りないものを見つけ、目標を持って過ごして欲しいと思います。自分の強みと弱みをしっかりつかみ、強みを伸ばすことと弱みを克服すること、そのための目標を持ったら簡単に諦めて途中で逃げ出さないことが大切です。“Where there is a will, there is a way” というリンカーンの言葉を授業で引用しています。さらに、グローバル人材になるための心がけとして ①相手をリスペクトしてその上で自分の考えははっきり言うこと、②fair & reasonableであること、③自分を磨くこと、という3点をアドバイスしています。


Q8・APICは太平洋やカリブ地域における支援事業に加え、留学生の支援事業など若者の育成にも力を入れています。グローバル化や多様化が重視される時代において若者に期待していることをお聞かせください。

次世代を担う皆さんには無限の可能性があります。これからの人生には様々な出会いが待っていますし、その中には運命的な出会いも必ずあります。今の時点でははっきりした夢が描けていなくても、目標を持ち、あきらめず一生懸命やっていれば必ず道は拓けます。“Fail fast, fail cheap, fail smart”という言葉があります。若いうちにどんどん失敗をしたらいいと思います。

学生の留学離れが進んでいるという話題もありますが、学生が日本にこもっているのはとても残念なことです。目標を持ってチャレンジしようという精神を持ち、いろいろなことに積極的に取り組んで欲しいです。APICではインターン制度もあります。インターンをはやく経験すると次の目標が見つけやすくなりますよね。学生時代にAPICのような活動に参加するということはグローバル化と多様化の両方を体験できるという意味でとても恵まれていると思います。是非皆さんの人生の次のステップに繋げていってください。

インタビュー:村上洋 APIC理事(味の素株式会社 社外監査役)
(村上理事と山本さん)

【略歴】
1975年 京都大学法学部卒業
同年 東レ株式会社入社
2000年 トーレ・インダストリーズ(アメリカ)社副社長
2008年 アメリカ地区全般統括 兼 在アメリカ東レ代表 兼 トーレ・インダストリーズ(アメリカ)社社長
2011年 取締役国際部門長
2013年 常務取締役 海外担当 国際部門長
2016年 役員退任、東レ株式会社顧問
同年 味の素株式会社社外監査役(現任)
同年 上智大学客員教授(現任)
2017年 (一財)国際協力推進協会理事(現任)

(※ 2018年7月時点)

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