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カリブ諸国との交流について(島内評議員インタビュー)

カリブ諸国との交流について(島内評議員インタビュー)

APICはカリブ諸国の環境、エネルギー及び観光の分野における開発協力事業として、これまでにいくつかのプロジェクトを実施してきており、本年度も3件のプロジェクトを計画しています。そこで、今回はAPIC評議員の島内憲氏(外務省参与・日本カリブ交流担当大使)にインタビューを行い、カリブ諸国についてお聞きしました。聞き手はAPICインターン生 高根美幸(上智大学2年)。


Q1. 島内評議員とカリブ諸国とのかかわりあいについて教えてください。

 私は外務省参与、日本カリブ交流担当大使を仰せつかっていました。2004年に中南米局長から、スペイン大使に転出し、ブラジル大使を経て2010年に退官しました。外交の前線で活躍することはもうないと思っていたところ、一昨年の秋、「2014年は、日本カリブ交流年であり、カリブとの関係を盛り上げたいので、カリブ交流担当大使としてカリブを歩いてほしい。」という話が、外務省から突如としてありました。カリブに在勤した経験がないのに、一寸僭越とも思いましたが、この地域に対する思い入れの強さでは、誰にも負けないという自負があったし、大好きなカリブとの関係強化のために頑張ることができるのでそれほど嬉しいことはないと思い、喜んでお受けしました。

Q2. これまでにカリブ共同体(カリコム)諸国の13か国を訪問されたということですが、どのような印象を持たれましたか?

 カリブの国でロケした欧米の映画は無数にあり、このため、カリブについては「絶景の地」、「南国のパラダイス」というイメージを持っている日本人が多いのではないかと思います。実際、カリブ特有の抜けるような青空、コバルト色の海、白砂の海岸は、自分の目で見ると映画以上に美しい。日本からは、乗継時間を入れないでも最低17~20時間くらいかかるのですが、不思議と日本人にとって違和感がありません。カリブには日本を身近に感じさせるところがあるからなのです。現地に行ってまず目に付くのは、日本でよく見る箱庭的景色です。そして、日本車が多いことであります。もう一つ日本人であればすぐに気づくのは、魚が新鮮で美味しいことですね。

Q3. 私たち学生にとってはカリブと言えば、「カリブの海賊」というイメージ程度なのですが・・・。

 そうですね。では、この地域の歴史についてお話ししましょう。西欧の国で最初にカリブにやってきたのは、スペインでした。しかし、16世紀以降英国、フランス、オランダが次々とカリブ海に進出し始め、カリブ諸島の支配国がめまぐるしく入れ替わりました。これが、この地域に様々な言語が飛び交う所以です。また、17世紀に入ると、砂糖生産ブームが始まりこの地域は欧州で消費される砂糖の大半を生産する時期もあったのです。砂糖プランテーションで働くため、この時期に多数のアフリカ人が奴隷貿易船で連れて来られ、奴隷労働に依存する経済が形成されました。これに伴い、この地域の人口もアフリカ系が多数を占めるようになったという背景があります。

Q4. APICが支援を行っている太平洋島嶼国も自然災害には脆弱ですが、カリブの島々はどうでしょうか?

 この地域の特徴として「脆弱性」が挙げられます。ハリケーンなどの自然災害の被害を強く受けることや国土があまりにも狭いため経済国としてやっていくのが困難であることが問題となっています。ですから、これらの西欧諸国の領土として先進国に属していれば、本国の支援を受けることが容易になるのです。これは、この地域の中に未だに仏領や蘭領のままでいる島々が存在していることに表れています。

 1つ目の自然災害に関して言うと、カリブは一部の国を除いてハリケーンのコース上にあり、その一撃で二年分の国内総生産を上回る損害を受けた例もあります。また、短時間の集中豪雨、地震や火山、大津波の被害も甚大です。30万人以上の死者を出した2010年のハイチ地震は記憶に新しいと思います。

 次に国際経済環境ついて言及すると、カリコムの大部分を占める小さな島国では、農地として使える土地が少ないため、食料の自給率が低く、輸入に頼らざるを得ません。当然、食料品の価格は高く、また電力もほとんど火力発電のため燃料の輸入が国内収支を圧迫します。電力料金も高い。一部で軽工業があるが、経済は観光収入に大きく依存せざるを得ない状況です。しかし、観光産業も2008年のリーマン危機で大打撃を受け、全体として回復は思わしくないようです。

Q5. これまでのお話をお聞きしていると、カリブの国々が自然災害など、自分の力では如何ともし難い問題に取り組むためには、国際社会の協力がどうしても必要であると感じますが、これについてはどのようにお考えですか?

 カリブ諸国が我が国に最も期待しているのは、一言でいえば、島国特有の脆弱性の克服に役立つ分野における協力です。特に我が国のように、防災分野、食料生産、再生可能エネルギーや省エネで豊富な経験と技術力を有し、島国として共通の課題を抱える先進民主主義国が果たすべき役割は非常に大きいと考えます。まず、食料生産についてですが、これまで我が国が行ってきた水産分野の協力は、食料自給率の向上に大きく貢献してきました。ですから、水産分野の無償協力は今後とも続ける必要があります。

 また、カリブ地域には地球温暖化の影響を真っ先に受ける国が多数あるため、気候変動防止という切り口からの支援も大切です。とりわけ、地熱、太陽光、風力等の再生可能エネルギーの導入はこの地域の国々の悲願です。ここでも我が国の資金協力と技術協力の有効活用の余地が大いにあると思います。

Q6. 2014年の「日・カリブ交流年」について詳しくお教え頂けますか?

 2014年は、日本とカリブ共同体(カリコム)諸国が事務レベルの年次協議を開始して20年、そして、共同体加盟国のジャマイカ及びトリニダードと外交関係を樹立して50年という特別の年でした。ということで、日本カリブ交流年と銘打って、双方で様々な機会をとらえ、行事やイベントを行うことにしました。平成26年7月に安倍総理が日本の総理大臣として初めてカリブを公式訪問し、トリニダード・トバゴでカリブ共同体加盟国首相との全体会合とともに各国との個別会談を行いました。11月14日15日にはカリブ共同体諸国の外務大臣を東京にお招きして、日カリコム外相会議も開かれ、間違いなく、日カリブ関係史上最も盛り沢山で内容が充実した年となったといえるでしょう。

Q7. 最後に、日本とカリコム諸国の協力関係、APICの協力についてお話し下さい。

 我が国との関係の上で、かねてからカリコム側にとっての懸案事項であったのが「所得基準」の問題です。カリコム諸国は小さな島国であるが故に特有の脆弱性を抱えていることは先ほど紹介しましたが、一部の国は、人口が少ないこともあり計算上一人あたりの所得が高くなってしまいます。一方、OECDのルールではODA対象国の所得基準が設けられており、このルールを機械的に適用すれば、一定の所得水準に達するとODAを受ける資格を失ってしまうのです。このため、カリコム諸国は「小さい島国は、国土が広い国と事情が違うので、特別の配慮をしてほしい」と主張しており、これは極めて真っ向な意見なのです。カリブの国々はその小規模さのため、富の絶対量が少ないのです。現地に行くとそのことがよくわかります。カリコム諸国より所得水準が同等以下のところでも、絶対的に経済規模が大きい国は、先進的なアメニティーを持っています。しかし、カリブの国、特に小さいところではそういうものがあまりないのです。

 このような状況を受けて、総理は7月の首脳会議で所得基準によらない支援に対する調査を約束したわけですが、岸田大臣より以下の三点、①8月再生エネルギー及び省エネルギーに関する調査を実施すること、②近く防災分野の調査を開始予定であること、③これら調査結果を踏まえ具体的協力を検討していくことが確認されました。これにより、カリコム側の最大の関心事であるODAの所得基準の問題への取り組みをしっかりとレールに乗せることができたといえるでしょう。これは、中長期的観点から極めて重要な進展です。というのは、このハードルを越えることができなければ、日本とカリブ諸国の協力が尻すぼみになる恐れがあったからです。

 大使館の設置状況ですが、我が国は、トリニダード・ドバゴ、ジャマイカの大使を、ハイチに臨時代理大使を常駐させています。大使館が物理的に存在するのは14か国中3か国ということになります。カリコム諸国は国際会議で我が国を支持してくれるのみならず、主張に付加価値をつけて積極的に発言してくれる頼りがいのある応援団であり、パートナーであります。というのも、英国領時代から根付いている民主主義諸制度の下で、有能、雄弁な人材が多く育っており、彼らの活躍を通じて国連をはじめとする国際会議で、国の数を大きく上回る発言権と存在感を発揮しているのです。我が国はこのことを正しく認識し、カリブ地域の重要性を正当に評価していく必要があると思います。

 APICでは、その「日・カリブ友好協力基金」を利用して、カリブ諸国の環境、エネルギー及び観光の分野における開発協力事業を積極的に支援する方針です。 とりわけ、食料生産、防災、再生可能エネルギーにおける関心と期待が高いことを私自身、各国訪問最中に肌で感じました。何れも我が国の得意分野です。APICの協力方針は極めて時宜を得ていると思います。

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