特集
地球環境問題はどうなっているのか
気候変動、砂漠化、大気汚染、自然環境の破壊などの環境問題は、一国だけでは解決できず、多くの国に被害を及ぼす地球規模の問題です。地球環境問題の現状と日本の対応はどうなっているのか、具体的な事例を交え紹介します。

マレーシア・タビン野生生物保護区での教員向け環境教育研修(ボルネオ生物多様性・生態系保全プログラム)(写真提供:JICA)
世界各地で発生する気候変動
今年の夏は岐阜県多治見市、埼玉県越谷市で40.9℃と、観測史上74年ぶりに国内最高気温の記録を更新するなど、日本全国が地球温暖化を実感するような猛暑に見舞われました。
身近なところでは、桜の開花が早まったり紅葉が遅れたり、海水温度の上昇は珊瑚の「白化」や近海で採れる魚の種類にも影響を及ぼしています。地球規模で見ると、欧州の熱波や洪水、米国の巨大なハリケーン、氷河の後退、北極の海氷面積の減少なども見られます。
このように、私たちの生活や経済活動によって排出される二酸化炭素(CO2)やメタンなどの温室効果ガスは地球規模の気候変動を引き起こし、このままでは地球温暖化がさらに進むことが予測されています。
地球温暖化の進展は、海水面の上昇による低地・海岸線地域の水没、異常気象による砂漠化の進行や農業への影響、マラリアなどの熱帯型疫病の広域化など保健・衛生への影響が予測されています。
日本の環境ODAは世界最大
しかし、地球環境問題は、地球温暖化だけではありません。 中国やインド、東南アジア諸国などの新興経済国では著しい経済成長により、温室効果ガスはもとより、工場の排煙や排水による大気や河川の汚染など公害が深刻化しています。また、過放牧による砂漠化の進展、森林の乱伐や農地拡大などによる熱帯林の減少は、CO2の吸収力を削減するだけでなく、生物多様性にも大きなダメージを与えています。
こうした環境問題は、一国にとどまらず国境を越えて被害をもたらします。そのため、国際社会が手を組んで対応していかなければならない地球規模の問題となっているのです。特に資金や技術が乏しい開発途上国をはじめ、新興経済国では経済成長を優先しがちで、環境対策があまり進んでいません。
日本は、京都議定書の温室効果ガス削減目標の達成を目指すとともに、公害問題に対するノウハウ、省エネルギーや新・再生エネルギーなどの高度な技術を活用して、途上国の地球環境問題に対して二国間や国際機関を通じて支援するなど積極的に取り組んでおり、環境分野のODAは先進国の中でも最大となっています。
地球環境問題はどうなっているのか 地球環境問題と日本の取組み
地球温暖化の進行、途上国の経済成長に伴う深刻な環境汚染、人口増加や貧困を背景とした自然環境の劣化など、途上国の人々にとって生活の脅威になっている地球環境問題に対し、国際社会の動向と日本の支援について紹介します。

中国の毛鳥素砂漠の緑化プロジェクトで乾燥に強い樹木を植林する(写真提供:吉田勝美/JICA)
環境問題への国際的な動き
地球環境問題は、1970年代から注目され始め、92年の国連環境開発会議(地球サミット)で「気候変動枠組条約」や「生物多様性条約」が採択されるなど、環境に関する国際条約や枠組みが作られました。そして10年後の2002年には、持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD:ヨハネスブルグ・サミット)が開催され、その重要性が一層確認されました。
ここでは、地球環境問題に対する国際的な動向について紹介します。
地球温暖化への対応
地球の平均気温は過去100年(1906年〜2005年)で0.74℃上昇し、20世紀の間に海面水位は平均で12〜22cm上昇しており、こうした温暖化は温室効果ガスの増加によるものと気候変動に関する政府間パネル(IPCC※)の第4次評価報告書では指摘しています。日本でもその間、平均気温が約1℃上昇しています。
地球温暖化への対策としては、温室効果ガスの排出量を抑えるため、先進国に対してその排出量を90年比で08年から12年の5年間で一定数値削減することを義務づけた「京都議定書」が05年に発効し、日本は90年比で6%の削減を義務づけられており、その約束達成に向け最大限の努力を行っています。
しかし京都議定書には、世界最大の排出国である米国が参加しておらず、排出量が急増する中国やインドなどは削減義務を負っていません。その上、途上国のCO2排出量は15年には先進国を上回るとの報告もあります。そのため、京都議定書の約束期間が終わる13年以降の枠組みについて、米国や途上国を含む主要排出国の参加の確保、より長期的な目標の設定、より多様な目標の設定、エネルギー効率の向上など実効性のある温暖化対策を柱に検討が行われています。
森林保全・生物多様性など
森林は温暖化の原因となるCO2を吸収し酸素を生み出すとともに、野生生物のゆりかごとして生物の多様性にも欠かせません。しかし、熱帯地域を中心に毎年本州の約6割に当たる1420万haの天然林が失われているといわれます。森林の減少は砂漠化の進行や生物多様性の喪失にもつながっています。
その原因には、農地への転用や過放牧のほか、違法伐採が深刻な森林破壊をもたらしています。日本は世界有数の木材輸入国として、国際熱帯木材機関(ITTO、本部は横浜所在)や、アジア森林パートナーシップ(AFP)など国際的な協議の場を通じて、違法伐採対策を含む持続可能な森林経営を推進しています。
一方、私たちは地球生態系の一員として、その微妙なバランスの中で他の生物と共存し、また、生物を食料や医療などにも利用しています。しかし近年、野生生物の種の絶滅が急速に進んでいます。「生物多様性条約」は、多様な生物の生息環境を保全し、生物資源の持続可能な利用、遺伝資源(鉱物資源と対峙する意味)から生ずる利益の公正な配分を目的としています。また、絶滅の恐れのある野生動植物の国際取引を規制する「ワシントン条約」、国際的に重要な湿地や湿地に生息する水鳥を保全する「ラムサール条約」も生物多様性の保全を担っています。
「水」問題と3R行動計画
水分野は、環境保全の関連では河川の汚染などに対処する水質保全や上下水道の整備、干ばつなどによる水資源管理などへの対応があり、「国連水と衛生に関する諮門委員会」や「世界水フォーラム」などがあります。 「3R行動計画」は04年のG8シーアイランド・サミットで日本が提案し、採択合意されたもので、資源の有効活用による環境負荷の少ない循環型社会を実現するものです。3Rはリデュース(廃棄物を減らす)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用)の頭文字です。
※IPCC:Intergovernmental Panel on Climate ChangeグラフタイトルをクリックしていただくとPDFがご覧になれます。
日本の支援はどうなっている
日本はWSSDにおいて「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ」を発表し、地球温暖化対策、環境汚染対策、水問題への取組み、自然環境保護を重点分野として、様々な取組みを行ってきました。ここでは具体的な事例を通して、日本の環境問題に対する途上国への支援を紹介します。
温暖化対策に日本の省エネ技術を活かす
◇ポーランド・日本省エネルギー技術センター・プロジェクト

ポーランドのECTCで指導する日本の専門家
(写真提供:JICA)
ポーランドは国内総生産(GDP)に対するエネルギー消費量が日本の13倍とエネルギー効率が低く、大きな課題になっていました。こうした中、97年に「省エネルギー計画マスタープラン調査」を日本に要請。その結果、工場での省エネ対策の問題点が指摘され、省エネ法体制の整備、省エネルギー技術センター(ECTC)の設立が提言されました。これを受けてポーランドでは、省エネ技術者の育成と情報普及を図るためECTCを設立、日本に協力を要請しました。
ポーランド・日本省エネルギー技術センター・プロジェクトは、ワルシャワ工科大学の協力を得て、ECTCをベースに産業界のエネルギー効率向上と環境対策の実現を目指すもので、04年から08年の4年間の予定で実施されています。
このプロジェクトにより、ECTCによる省エネ推進の管理・運営体制、省エネ研修、工場診断、広報活動等の実施体制が確立されることになります。
現在、日本の専門家の指導により、各工場でのエネルギー効率を調べる「工場診断」の経験を通じた指導員への研修を行っているほか、研修員の受入れ、機材の供与によって、日本の省エネルギー技術が伝授されています。
砂漠化と黄砂の防止を目指す
◇中国・寧夏回族自治区植林植草計画

寧夏回族自治区の植林計画について
打ち合わせをする(写真提供:JBIC)
毎年春、中国黄土高原やモンゴルのゴビ砂漠などの砂が巻き上げられ、偏西風などで日本に各地に飛来する黄砂。その黄土高原に位置する寧夏回族自治区の農民は、砂漠化により深刻な影響を受けています。この黄土高原で、植林と植草により砂漠化の防止を目指す取組みが、円借款の支援で行われています。
植林植草計画は、寧夏回族北部の35カ所で植草や植林(砂漠固定林と経済林)、関連施設の整備を行うもので、地元の農民によって実施されています。植草には家畜の飼料になる牧草や甘草などの薬草が、経済林には枸杞、桑、ナツメなどが植えられています。県や市と契約した農家には苗木や肥料が支給され、薬草や果物による収入によってその代金を支払うシステムです。砂漠化防止と農民の貧困対策を兼ね備えた日中共同のユニークな事業に、期待が寄せられています。
大気汚染など公害防止を支援
◇発電所環境測定機器整備計画(フィリピン)

マシンロック石炭火力発電所の近くに
設備された環境モニタリングステ−ション
(写真提供:JBIC)
フィリピンでは、深刻化する大気・水質汚染に対処するため、93年に大気汚染にかかる基準を改正し、電力会社に発電所および周辺の環境モニタリングが義務づけられました。これにより国家電力公社(NPC)では、円借款の支援により、排出ガスの汚染度や水質・騒音を測定するための環境測定機器の整備を行いました。本事業で導入されたモニタリング機器により正確なデータが得られ、環境汚染の多い発電所の特定や、発電所の安全性の確認に役立っています。
◇東アジア酸性雨モニタリングネットワーク
工場や自動車の排出ガスに含まれる硫黄酸化物や窒素酸化物の影響よって発生する酸性雨は、樹木を枯らし土壌を汚染し、建物を劣化させるなど、国境を越えて被害をもたらします。
「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」は、東アジア地域の酸性雨に対処するため日本のイニシアティブにより組織され、01年から本格に動き出しました。現在、カンボジア、中国、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、韓国、ロシア、タイ、ベトナムの13カ国が加盟しています。
酸性雨のモニタリングの実施、データの収集、評価、情報提供、技術支援と研修などを実施しています。
自然環境保全へ日本ならではの支援
◇ボルネオ生物多様性・生態系保全プログラム

クロッカー山麓公園での環境教育活動
(マレーシア/写真提供:JICA)
ボルネオ島は地球上で最も生物多様性の高い地域といわれますが、北部に位置するマレーシアのサバ州は、森林伐採やプランテーション開発により森林が急速に減少し、そこで暮らす人々の生活に影響を与えると同時に、多くの種が絶滅の危機に瀕しています。そのため日本は、地球規模の課題と地域の経済開発の双方にとって重要なサバ州の生物多様性保全に対して02年から07年の5年間、技術協力を行ってきました。
具体的には、研究・教育、公園管理、野生動物生息地管理、環境啓発の各分野で専門家を派遣し、マレーシアから研修員を日本に受け入れ、自然環境保全の体制や手法の確立を支援しました。その特徴は、国立サバ大学、サバ州の公園局、野生生物局、科学技術室などをはじめサバ州政府関係機関やNGOと連携し、包括的なプログラムとしての取組みを実施したこと、また、シンポジウムなどを通じて住民や関係者の理解と参加を促したことです。その結果、住民主導の保全活動や新たな保護区設置などの成果が得られるなど、サバ州全体で自然環境保全への気運が高まりをみせています。なお、07年10月からは、サバ州の環境保全行政をより強化するため、第2期の協力を開始しています。
◇熱帯・亜熱帯地域におけるエコツーリズム企画・運営

沖縄でのカヌープログラムの模様
(写真提供:JICA)
JICA沖縄国際センターが行っている研修コースで、熱帯・亜熱帯地域の島嶼国における珊瑚礁やマングローブなどの自然資源と歴史や文化資源を活かしたエコツーリズムの企画、実践方法などを修得し、エコツーリズムを推進していく人材育成を目的にしています。自然環境に配慮した持続可能な観光開発の新たな試みとして、注目されています。
◇郷土樹種造林普及計画プロジェクト

サマリンダでのフタバガキの苗畑
(インドネシア/写真提供:JICA)
インドネシアでは、木材の生産と天然林の保全のため産業造林を進めてきましたが、外来早生樹種に片寄りがちでした。熱帯林での生物多様性を維持し、木材市場でもニーズの高い郷土樹種の普及が望まれていました。
そうした中、同国林業省研究開発庁とともにラワン材で知られるフタバガキ科の樹種の大量生産の共同研究をしている一人の日本人、坂井睦哉さんがいました。フタバガキの結実は数年に1度と不定期で、種子からの育成は困難とされてきました。坂井さんは、世界で初めて挿し木による苗木の大量生産に成功し、JICAのPROTECO(提案型技術協力)の第1号に認められました。04年から実施された技術協力プロジェクトの専門家として、坂井さんは技術の移転に携わりました。07年2月までに技術を導入した企業や大学、研究機関は22に達しています。
(赤字の部分は、国際協力新聞では印刷事故により欠落されてしまいました。お詫びして訂正いたします)
日本の円借款事業がCDM事業に登録されるエジプト「ザファラーナ風力発電計画」

ザファラーナ風力発電所
(イメージ/写真提供:JBIC)
エジプトでは電力需要が毎年高い伸びを示していて、97年から20年間で需要は約3倍になると予測されており、電力の供給不足が懸念されています。そのためエジプトでは、燃料の多角化、エネルギー効率の改善、省エネルギーの推進、風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーの活用に取り組んでいます。そのような中、日本は円借款により「ザファラーナ風力発電計画」に支援しています。
「ザファラーナ風力発電計画」は、カイロの南東220kmに位置する紅海沿岸のザファラーナ地区に、120MWの出力をもつ風力発電所(日本最大規模の宗谷風力発電所の出力の約2倍)を新設するものです。
ザファラーナ風力発電所は、電力の安定供給とともに、化石燃料の使用を抑えて大気汚染の緩和と温室効果ガスの排出を削減し地球温暖化の防止にも寄与するため、京都メカニズムの一つであるクリーン開発メカニズム(CDM)※の登録を申請していましたが、6月22日に国連のCDM理事会より承認されました。これは、二国間協力事業として実施される大型CDM事業の事業費をODAで支援する世界で初めてのケースになります。
※CDM:先進国と開発途上国が共同で温室効果ガス削減事業を実施することで、先進国は削減分(排出権)を自国の目標達成に利用できるとともに、途上国の持続可能な開発にも寄与することが期待される制度。湿原の再生と安全な水を求めてイラク南部湿原環境管理支援プロジェクト

整備された水道を利用する住民
チグリス・ユーフラテス川の合流地点に位置するイラク南部湿原は、中東地域で最大の生態系を有する湿原として、豊かな生物多様性を維持し、5000年にわたり現地住民が文化や生活を営んできました。しかし、1970年代以降、上流でのダム建設や旧イラク政権の治水治山政策により、その9割が消滅したといわれていました。
イラク南部湿原環境管理支援プロジェクトは、湿原の再生と現地住民への安全な飲料水と排水・衛生設備の提供を目的に国連環境計画(UNEP)が立案し、日本の拠出したイラク復興信託基金により2004年8月から08年3月まで3期にわたり、大阪府と滋賀県にあるUNEP国際環境技術センター(IETC)によって実施されているものです。
このプロジェクトにより、湿原は04年当時より60%増加、環境省、水資源省、イラク南部湿原保全センター、UNEPとの間で湿原情報ネットワークを構築、湿原環境管理、水資源管理などの研修コースの開講、7コミュニティに対し安全な飲料水を提供、雇用機会の創出などの成果を上げています。

海洋漂着ゴミ問題で国際的な連携国際海岸クリーンアップキャンペーン
今年6月に中国で開かれた国際海岸クリ−ンアップキャンペ−ンの模様
今、日本の海岸には、椰子の実ならぬ注射針などの危険な医療廃棄物やプラスチックゴミなどが漂着しています。この漂着ゴミは国内のみならず、国際的にも深刻な問題になっています。日本は、UNEPが進めている地域海計画の一つで、日本、韓国、中国、ロシアの4カ国で1994年に発足したNOWPAP(北太平洋地域海行動計画)の第10回政府間会合の決定を踏まえ、昨年9月山形県酒田市でNGO等との共催でNOWPAP主催の国際海岸クリーンアップキャンペーン(ICC)を開催しました。さらに、今年6月に中国で初めて開催した同ICCに日本の専門家が参加しました。
一方、中国、韓国とは二国間の協議で、漂着ゴミ問題の原因究明を求めるとともに、その解決にむけて協力をすすめています。
2007.9.28





