特集
世界有数の省エネルギー技術を途上国に支援する
日本の省エネルギーに対する高度な技術と制度は、世界からも高く評価されています。地球温暖化とエネルギー安全保障が叫ばれる中、日本の開発途上国に対するエネルギー分野の環境対策支援はどうなっているのか、事例をもって紹介します。

電気系統の省エネルギー研修(トルコ国立省エネルギーセンター/写真提供:JICA)

再生可能エネルギーのひとつ「風力発電」
地球温暖化とエネルギー安全保障を視野に
開発途上国を中心とするエネルギー需要の大幅な拡大は、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出による地球温暖化が顕在化するとともに、途上国のエネルギー多消費構造は、エネルギー資源の安定確保などエネルギー安全保障等の問題にも影響を及ぼしています。
こうした中で、世界一のエネルギー効率を誇る省エネルギー大国・日本の高度な技術や制度を活かした途上国支援は、温室効果ガスの排出を低減するとともに、エネルギーの高効率な利用による資源の有効活用を推進する上でも期待されています。
途上国においても省エネルギーとともに、太陽光、風力、バイオマス、地熱など再生可能エネルギーの活用が、エネルギー源の多角化とCO2排出削減の観点から注目されています。
日本は、1997年に京都で開かれた気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において、政府開発援助(ODA)を中心とした温暖化対策支援として「京都イニシアティブ」を発表。人材育成では温暖化対策に関する研修などを通じて、98年度から7年間で約1万3000人、優遇条件による環境円借款では97年12月から05年3月までで83件、約1兆900億円に達しています。
ここでは、途上国に対する省エネルギー、再生可能エネルギーなどの支援についての具体的な事例を通して、日本のエネルギー分野の環境対策支援を紹介します。
トルコ「省エネルギープロジェクト」
省エネ分野で高い成果あげる
省エネルギーの推進に力注ぐ

全国の工場から集まった
エネルギー管理担当者への研修
(トルコ国立省エネルギーセンター
/写真提供:JICA)
トルコではエネルギーの輸入依存度が高く、自給率は1997年で50%に満たない状態でした。また、近年はエネルギー消費が急増しているため、自給率は年々低下していました。
トルコ国立省エネルギーセンターではエネルギーを節約するため、1995年に主要大型プラント企業に対してエネルギー管理者の配置を義務づける制度を設けるなど、省エネルギーの推進に力を注いできました。しかし、実施体制やノウハウが不十分なため目標を達成できませんでした。そこで日本は2000〜05年にわたり、トルコに対して「省エネルギープロジェクト」を実施しました。
研修・工場診断・広報の三本柱

工場診断を指導する日本の専門家
(写真提供:JICA)
このプロジェクトは、トルコ国立省エネルギーセンターに対して、省エネに対する研修、工場診断、広報・政策提言の機能強化を支援するためのもので、長期専門家5名、短期専門家25名を派遣、実習プラントや工場診断用計測機器などの機材供与、日本に研修員を19名受入れたほか、各種調査や訓練を実施しました。
研修では、日本の省エネルギーセンターで実施している研修制度を基にカリキュラムとテキストを作成するとともに、研修講師の育成と実習プラントを導入。年間平均7〜8回の研修を行い、400人以上が研修に参加しました。
工場診断では、各工場のエネルギー使用状況をチェックし、効率的なエネルギー使用のための助言を実施。また、診断に必要な計測機器を供与し、工場診断のための技術指導も行いました。5年間で122回工場を訪問し、その提案内容に基づいて省エネを実施した工場では、年間7億円相当の省エネを達成したという報告もありました。さらに、広報・政策提言では、ホームページの作成や各種セミナー、ワークショップなどを実施しました。
継続的な支援が実を結ぶ
今回の支援で、トルコ産業部門の総エネルギー消費量の最大5%の省エネが推進されたと試算されています。このように、トルコに対する省エネルギープロジェクトは、省エネ分野の支援でも高い成果を得た成功例といえます。
その背景には、日本がトルコに対して行ってきた長期にわたる継続的な支援があります。トルコの省エネ政策の基盤となっているエネルギー管理者制度は、 日本の省エネルギーセンターで研修を受けたトゥリン・ケスキン氏が草案を作成したものです。
この省令を基に進められた省エネ政策のマスタープランは、95〜97年に日本の開発調査と専門家の派遣により作成されたほか、95〜2000年には省エネアドバイザーとして専門家を派遣するなど、トルコの省エネ政策への政策支援を一貫して行ってきた実積を見逃すことはできないでしょう。
なお、省エネルギープロジェクトで移転された技術は、中近東、東欧、中央アジアなどの周辺国向けの第三国研修としてトルコで実施されています。
中国「鉄鋼環境保護技術向上プロジェクト」
省エネ推進で大気汚染を抑制
突出する鉄鋼業の環境負荷

日本の支援による
多機能燃焼実験炉の据付作業
(写真提供:JICA)
急激な経済発展を続ける中国。現在、世界第2位のエネルギー消費大国としてエネルギー消費は拡大し、化石燃料の燃焼と不十分な環境対策により、特に都市部では大気汚染が深刻な社会問題になっています。主な大気汚染源は、酸性雨の原因となる硫黄酸化物(SOx)で、中国全土の3割で酸性雨がみられます。
中でも鉄鋼業は、産業全体の排煙排出量の15%、SOx排出量の約7%を占めています。しかし、排煙から硫黄分を取り除く排煙脱硫装置の設置率は低く、エネルギー消費量も突出しています。こうした中で中国は、第10次5カ年計画(2001〜05年)で、省エネルギー対策を進めて大気汚染を改善する目標を打ち出しました。
これらの目標を達成するため、鉄鋼業の省エネルギーや環境保護の技術開発と人材育成、技術の普及を日本に要請。日本は「鉄鋼業環境保護技術向上プロジェクト(02〜07年)」を5年間にわたって支援しています。
燃焼技術と排煙処理技術を支援

日中評価委員会の模様
(写真提供:JICA)
このプロジェクトは、中国の「鋼鉄研究総院」の研究者に対し、省エネルギー・環境保護の技術移転を通じて、中国の鉄鋼業の自主的な研究開発を促し、人材を育成することを目的としたものです。
具体的には(05年度中間評価時点)、長期専門家4名、短期専門家18名を派遣し、中国から研修員を14名受入れ、燃焼技術改善能力の向上と排煙脱硫(脱塵、脱硝)など排煙処理技術、工場燃焼・診断技術について技術移転を実施。また多機能燃焼実験炉、計測解析用機材、工場診断用機材などの機材供与を行っています。これまで、各地の製鉄所などを訪問、各種セミナーや技術紹介のデモンストレーションを実施し、高い成果を上げています。
エジプト「ザファラーナ風力発電計画」
経済発展と環境保全の両立を支援
再生可能エネルギーの活用を促進

既存の「ザファラーナ風力発電所」
(写真提供:JBIC)
エジプトでは1995年以降、電力需要が毎年5〜7%の高い伸びを示しています。今後とも電力需要は増加傾向が続き、97年から20年間で需要は約3倍になると予測されており、電力の供給不足が懸念されています。
こうした中、エジプト政府は電力の安定供給を確保するため、燃料の多角化、エネルギー効率の改善、省エネルギーの推進とともに、風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーの活用に取り組んでいます。
具体的には、2010年までに建設が計画されている約1万1300MWの電源開発のうち880MWを再生可能エネルギーで賄う方針で、その大半(815MW)は風力発電を予定しています。そこで日本は「ザファラーナ風力発電計画」に対して円借款(約135億円)を供与することとしました。
クリーン開発メカニズムも考慮
ザファラーナ風力発電計画は、首都カイロの南東220kmに位置する紅海沿岸のザファラーナ地区に120MWの風力発電所を新設するもので、その規模は日本最大の宗谷風力発電所の約2倍の出力を擁します。
これにより、エジプトの経済成長に欠かせない電力の安定供給を図るとともに、化石燃料の使用を抑制することで大気汚染を緩和するとともに温室効果ガスの排出を削減し、地球温暖化の防止に寄与するものです。
ザファラーナ風力発電計画は、風力発電により温室効果ガスの排出を削減するため、京都メカニズムのクリーン開発メカニズム(CDM)※の登録を目指しています。
※ CDM:先進国と開発途上国が共同で温室効果ガスの排出削減に貢献する事業を実施した場合、先進国がその削減量を自国の排出枠として得られるシステム(→関連記事)。
インドネシア「ラヘンドン地熱発電所拡張計画」
地熱発電に日本の技術を活かす
設備の老朽化などで需要ひっ迫

「ラヘンドン地熱発電所」完成予想図
(提供:JBIC)
インドネシアは近年、順調な経済発展を遂げており、スラウェシ島の北スラウェシ州主要部に電力を供給するミナハサ電力系統でも、今後4〜7%の需要の伸びが見込まれています。
しかし、設備の老朽化やメンテナンスによる運転停止により供給能力が低減しており、電力需要のひっ迫が差し迫った課題となっています。そのため、ミナハサ電力系統の電力供給の確保が、地域経済の発展に欠かせないものとなっています。
安定供給と環境負荷の低減に期待
豊富な地熱資源をもつインドネシアでは、地熱発電の開発を推進しており、すでにミナハサ電力系統でもラヘンドン地熱発電所(20MW)が稼動しています。
そこで日本は「ラヘンドン地熱発電所拡張計画」に対して、約59億円の円借款を供与しました。これは、既存のラヘンドン地熱発電所に20MWの地熱発電設備を新設するものです。
地熱発電設備の新設により、スラウェシ州主要部への電力の安定供給が図られるとともに、温室効果ガスの排出が少ない地熱発電の活用は、地球温暖化の抑制にもつながるものです。
なお、地熱エネルギーを活用した日本の発電技術は、国際的に高く評価されており、世界の地熱発電設備において、日本製のタービン・発電機が占める割合は7割以上に達しています。今回の支援で、日本の優れた地熱発電技術がインドネシアに移転されることになります。
2006.xx.xx
コラム (株)村越千春住環境計画研究所 取締役研究室長に聞く SCOを活用した省エネプロジェクトとは

ビジネスサイドから「プロジェクト研究」を発表する村越氏(JICA公開セミナーで)
近年、石油の安全保障、地球温暖化問題に対する重要な役割を果たすものとして、ビジネスベースで省エネを進める企業(ESCO:Energy Service Company)が注目を集めています。国際協力機構(JICA)は効果的な省エネ協力を行うために、ESCOを活用した新しいアプローチでの省エネ案件研究の第一弾として「ESCO活用型省エネルギー推進に関するプロジェクト研究」を実施中です。そこで、ESCOの研究者であり、日本のESCO協議会「JAESCO」の事務局でもある村越千春氏にお話を伺いました。
―ESCO事業とは?
村越 工場や病院など、建物全体の省エネに関して、診断から改修工事、運転管理にいたるまで包括的なサービスを提供し、顧客の利益(省エネ効果)の一部を報酬として受け取る事業です。特徴は、(1)光熱費などを削減する費用で、省エネ改修にかかる全ての経費をまかなう。(2)省エネ量が達成できない場合は、ESCO事業者が損失補填を保証するパフォーマンス契約(出来高契約)を提供する。(3)ESCO事業者が、診断、計画立案、施工、融資の斡旋、顧客の利益計算などに関する責任を一括して負い、包括的なサービスを提供する。(4)省エネ改善の効果を適正に評価するため、定期的に計測・検証を行う。(5)プロジェクトファイナンス(事業の採算性を担保とする融資)であるために、投資回収年数が長く企業の融資枠が得られにくい省エネ改修事業が行われやすい―といった5つの点です。
―ESCOを途上国支援に導入するメリットは?
村越 今までJICAは、様々な省エネ技術の支援を行い、省エネ診断や技術研修などの能力開発も個別に行っていました。これに加え、ESCOは需要サイドに立った包括的な支援ができること、確実な省エネが達成できること、ESCOだから開発可能な省エネ市場が存在することで期待されたのだと思います。将来的な発展性が見込め、民間ビジネスとして定着させることができるという点も大きいでしょう。
現在、ESCO事業は42カ国で行われており、国際的市場に成長しつつあります。アジアの途上国でも、省エネの潜在量が非常に高く、しかもESCOの技術は、途上国の技術レベルで十分対応可能なため、成功の可能性が高いのです。
―プロジェクト研究の中で生じた問題点は?
村越 途上国では省エネの規制がゆるく、マーケットがほとんどない。開発するには規制の強化、政策的なバックアップも必要ですが、それだけではすぐには浸透しません。やはり民間ビジネスとして省エネ市場を作る必要がある。しかし、契約など商習慣や金融システムなどの問題も乗り越えなくてはなりませんし、ESCO・顧客双方のキャパシティビルディング(能力強化)も必要です。また、積極的に普及・啓発を行い、市場を育てながら、参入するプレイヤーを増やす必要もあります。
―省エネ市場をODAで支援する意義は?
村越 エネルギー安全保障の点からも、省エネは重要な位置づけにあります。今後、途上国が経済発展すればエネルギー需要が急増して資源の争奪は免れません。それを回避するには、省エネを支援してその市場を作り、定着させるのが必須課題なのです。
省エネビジネスは地元企業の協力がなければ成り立たないネットワークビジネスなので、利益還元はまず地元の省エネマーケットの育成に向かいます。しかし、マーケットが育てば日本の企業が進出できる素地が整うわけで、いずれは国益に適います。そのためにも、ODAでESCO事業を推進するための市場作りを支援することは重要だと思います。

