特集
ODA評価 より効果のある援助を行うために
日本の開発途上国に対する支援(ODA:政府開発援助)は、本当に役立っているのか、適正に使われているのか。より効果のある援助を行うために、「ODA評価」は大きな役割を担っています。日本のODA評価システムはどうなっているのでしょうか。
外務省のODA評価有識者会議の座長を務める牟田博光氏(東京工業大学大学院社会理工学研究科長・教授)に、ODA評価の意義や目的、実施体制などを伺うとともに、具体的な事例として「日本NGO支援無償資金協力」スキームの評価と国際緊急援助隊評価を取り上げ、ODA評価からフィードバックに至る流れを紹介します。
現地調査でのヒアリング(ベトナム) |
アルジェリア地震を調査する国際緊急援助隊専門家チーム |
牟田博光 ODA評価有識者会議座長に聞く評価をいかにフィードバックさせるかがポイント
牟田博光氏
東京工業大学大学院
社会理工学研究科長・教授
ODA評価はなぜ必要なのですか?
牟田 : ODA評価の目的は、主に二つあります。
ODAは開発途上国の支援に使われていますが、国民の税金により賄われています。ですから、税金が本当に役に立っているのか、きちんと使われているのか、国民への説明責任を果たさなければなりません。
もうひとつは、評価によって得られた教訓や提言を活用して、ODA事業をより良いものに改善していくことです。これをフィードバックといいます。
評価にはどんな種類があるのですか?
牟田 : 評価は、実施する時期によって「事前評価」「中間評価」「事後評価」の3つに大きく分けられます。
以前は、プロジェクトの終了後に行う事後評価が一般的でした。しかし現在では、プロジェクトの指針となる事前評価(アセスメント)も重要視されています。
またODAは、実施する途上国の条件の悪さなどから、思ったように進まない場合もあります。そのため、事業の途中で評価を行い修正点を確認する中間評価も実施されています。
評価の客観性はどのように維持されていますか?
牟田 : 評価には、プロジェクト関係者が行う「内部評価」と、プロジェクトとは関係のない人が行う「外部評価」があります。もちろん両者をミックスした評価もあります。
具体的には、国際協力機構(JICA)の場合、プロジェクトが小規模で数も多いため、内部評価を中心に行っています。しかし客観性を保つため、評価結果を外部の有識者からなる委員会で確認する二次評価も併せて行っています。
国際協力銀行(JBIC)の場合は、事業規模が比較的大きく数も少ないので、外部評価で行っています。この場合も、外部の有識者も参加している委員会で評価結果についてのレビューを行っています。
外務省のODA評価の特徴は?
牟田 : 外務省は個別事業の評価は基本的に行わず、政策レベル・分野(プログラム)レベルの評価を行っています。
政策レベルでは、ODAを供与している主な国について5カ年ごとの「国別援助計画」を作り、5年後に目的を達成したかどうかの評価を行います。
分野レベルでは、保健・衛生とか、貧困削減といった大きな分野に分けて、その分野ごとに日本の援助について評価しています。
これらの評価は非常に大きなテーマを扱うため、「ODA評価有識者会議*(有識者会議)」に評価を委託しています。
※ODA評価の客観性を高めるため、2003年10月から導入された第三者評価の組織で、学識経験者を中心に構成さている。

評価の実施体制と評価対象
無償資金協力の評価を強化することについては?
牟田 : これまで無償資金協力への評価は、いろいろな理由から十分に行われていませんでした。透明性の向上や効率化を図る意味で、今後は無償についても評価を充実していく必要があると思います。
評価結果は活かされていますか?

外務省が行った評価報告書
牟田 : 各種の評価結果は、次に行われるプロジェクトに活用されること(フィードバック)が期待されています。
フィードバックの基本的な流れは、まず評価報告を作って、本やホームページで公表し、多くの人や関係者に見てもらい、その提言や教訓を次の案件形成に活かすことにあります。しかし、報告書を公表しただけでは、なかなか読んでもらえないのが現実です。
評価を活かすための工夫は?
牟田 : 大事なことは、フィードバックがうまく働く仕組みを作ることです。例えば外務省では、有識者会議の評価で出された提言や教訓を、どのように行動に移すかを示した対応策(行動計画)を作成します。これを有識者会議で審議し、了承されると、外務省あるいはJICA、JBICが行動計画を実行します。しかるべき期間の後に、その結果がどうなったかを有識者会議に報告し、了承する仕組みになっています。
また現在は、案件実施の検討において、費用対効果が得られることを確認しています。つまり、以前に行われていた同じような案件の評価結果から学んだことを案件実施の検討に反映するなど、必ず過去の例を学ぶような仕組みが取り入れられています。このように、ODA評価は非常に体系的に作られているのです。
日本のODA評価の国際的な位置づけは?
牟田 : 外務省をはじめ、JICA、JBICも非常にまじめに取り組んでおり、世界でもトップクラスにあると思います。
援助国の集まりの中にも、評価を担当するグループがあり、そこで最新情報を取り入れるなど、国際舞台で切磋琢磨してきたためです。
ODA評価の今後の課題は?
牟田 : ODA評価の質を高めるには、評価専門家をいかに育てていくかが課題になります。そのため、ODA評価を学問として研究する大学、大学院、学会などの拡充が必要です。
同時に、ODAに携わるすべての人に、評価についての一般的な知識をもってもらうことも重要です。すべてのODA関係者に、評価の観点からODAの案件形成や運営を心がけてもらえれば、より質の高い効果的な援助が可能になると思います。
「日本NGO支援無償資金協力」スキームの評価(04年度NGO・外務省合同調査)外務省の対応能力強化とNGOのスキルアップを
外務省経済協力局民間援助支援 室長 城守茂美
「日本NGO支援無償資金協力」スキームの評価
評価形態
NGOと外務省による合同評価評価対象
日本NGO支援無償資金協力の6つの形態について、国内でのアンケート調査(支援対象NGO55団体、支援対象外NGO15団体など)のほか、カンボジアでの6事業について現地調査を実施。評価のポイント
目的の妥当性、運用「プロセス」の適切性、運用「結果」の3つの視点から評価を行った。
詳細は、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/report/j_ngo.html
評価の対象となったセンソック小学校校舎1棟建設(写真提供:(特活)JHP学校を作る会)
評価の対象となった国立小児病院外科入院病棟建設(写真提供:(財)国際開発救援財団)
制度そのものは高く評価
日本NGO支援無償資金協力(以下、日本NGO支援無償)は、02年度に始まった比較的新しい制度で、当初の13億円から04年度には25億円と大幅に伸びている制度だけに、04年度NGO・外務省合同評価で、客観的な評価が行われたことは、意義のあることと思います。
今回の評価では、NGO側の声として「財政基盤の弱いNGOの強化に役立った」「本部プロジェクト実施経費もみてもらえる」など、制度そのものについては高く評価されました。
一方、今後の課題や提言についても貴重な指摘がなされました。まず、「NGOが公的資金を受ける際には、申請額と組織能力を考慮すること」が求められました。この件については、これまでも申請の段階で団体の財務状況や事業実績のチェックをはじめ、関係資料の提出のほか、申請内容が具体化したところで、外部機関、さらに在外公館で、二重、三重のチェックをしながら、最終決定を行ってきましたが、今後ともさらに注意していきます。
本部プロジェクト実施経費については高い評価を受けたものの、「NGO側にまだ十分理解されていない」との指摘がありました。これについては、NGOセミナーで説明しており、民間援助室でも随時対応していますが、さらに重視していきます。
まずは民間援助支援室に連絡を
多年度にわたる事業への対応については、日本NGO支援無償は1年間の単年度事業ですが、実施中の案件が順調であれば、その中間時から次年度の申請が可能です。しかし、NGO側には今ひとつ理解が得られていないようなので、実際に継続実施している事例をあげながら説明していきます。
また、申請書を提出してから外務省の審査完了までの時間については、「NGO側の申請書の書き方の質をあげるとともに、外務省も書類作成を側面からサポートするように」との指摘がなされました。
この制度がまだ新しいため、NGO側も慣れていない面があると思いますが、最初に提出された書類の不備を訂正し、「申請書類一式が整った時点」を申請受理と考える外務省と、「最初に書類を提出した時点」を申請受理と考えるNGOとの間に認識の違いがあるようです。
今後、日本NGO支援無償に興味のある団体は、担当者がマンツーマンで相談にのりますので、ぜひ民間援助支援室にまず連絡をいただきたいと思います。
今回の評価の課題や提言を受けて外務省は対応能力の強化を、NGOはスキルアップを図り、日本NGO支援無償がより質の高い効果的な制度になるよう努めていきたいと思っています。(談)
国際緊急援助隊評価(03年度外務省第三者評価)評価・提言を着実にフィードバック
外務省経済協力局国際緊急援助室首席事務官 望月寿信
国際緊急援助隊の評価
評価形態
ODA有識者会議メンバーにより、国際緊急援助隊制度の「目的」「結果」「実施体制」の観点から評価が行われた。評価対象
(1)トルコ地震(99年)、(2)台湾地震(99年)、(3)ベトナムSARS(重症急性呼吸器症候群/03年)、(4)アルジェリア地震(03年)。(1)(2)(3)は救助チーム、医療チーム、専門家チーム、(3)は専門家チーム評価のポイント
最終目標(国際協力の推進に寄与すること)の達成度、中間目標(人的被害の軽減、情報公開と日本の貢献に対する国内外の認知度)の達成度、実施体制(通常時、派遣時)など。
詳細はhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hyouka/report/enjyotai.html

地震での被災者を治療する国際緊急援助隊医療チーム(アルジェリア)

SARS感染対策をアドバイスする国際緊急援助隊専門家チーム(ベトナム 写真提供:JICA)
貴重な課題の指摘や提言
国際緊急援助隊の活動は、日本の海外支援(ODA)の中でも「目に見える貢献」として象徴的な役割を担っています。
中間目標の達成度では、被害者の救出・収容、診療を通じて、人的被害の軽減は定量的に明らかになりました。また、アルジェリアにおける現地調査に際し、被災地の関係機関や現地の人たちの生の声を通じて、精神的に被災者の大きな支えになったこと、さらに、日本の地震対策技術に対する期待が大きく、専門家チーム派遣の意義があったことが確認されました。
実施体制改善では、通常時の準備体制(研修・訓練)のさらなる拡充の必要性、在外公館・国際協力機構(JICA)現地事務所での緊急援助隊支援業務の引継ぎの徹底、マスコミ対策強化等の重要性が認識されました。
また、派遣時の実施体制については、迅速な移動手段の確保、被災国での活動の効率化やチーム能力の一層の向上等が課題として指摘されました。
「スマトラ」で活かされた提言
評価を通じて得た提言は、スマトラ沖大地震およびインド洋津波における国際緊急援助隊の活動にも確実な成果として現れています。
救助チーム、医療チーム、専門家チーム、自衛隊が複合的に、しかも複数の国に派遣された例はこれまでにありませんでした。
そうした中、例えば、スリランカへの緊急援助に当たっては日本の医療チームが他国に先がけて最も早く到着しました。このような迅速な対応には、今回の評価で示された提言が反映されています。

スマトラ沖大地震およびインド洋津波の被災地で活動にあたる救助チーム(タイ)
また在外公館・JICA現地事務所は、国際緊急援助隊の活動に対して、しっかりとした支援体制を整え対応を行いました。これは、在外公館に対して緊急援助事務の手引きや説明資料を随時送るなど、評価の提言に基づき対応を周知徹底してきた結果といえるでしょう。
通常時の体制改善に向けた提言に対しても、絶え間ない努力を続けています。例えば、救助チームの活動には警察、消防、海上保安庁の専門家が主要な役割を担うため、平素から一緒に訓練を行うことが非常に重要になります。
具体的には、救助チームの総合訓練の回数を増やし、より多くの待機要員(登録者)に訓練への参加機会を与え能力向上に努めています。また、被災現場では、各国、国連機関との連携も重要になります。そのため、アジア各国から救助関係者を招待して国際合同訓練を行ったり、国連等の国際訓練に参加するなどの試みも実施しています。
このように、ODA評価有識者会議による第三者評価の提言を踏まえ、今後とも国際緊急援助体制の改善に努めていきたいと考えています。(談)
コラム 国際協力機構(JICA)の「セブ州地方部活性化計画」の評価 地方の主体的な取り組みが実践された

セブ州北部の村落での住民参加型ワークショップ。
住民自らの意見を通して、
地域主導の開発事業が発掘・形成された
(写真提供:JICA)
フィリピンでは、1991年に地方分権法が制定され、中央政府から地方自治体に大幅な権限・機能の委譲が行われています。これは、地方自治体が中心となり、地域住民とともに主体的に取り組んでいくことで、地域開発を効率的に進めるというねらいがあります。
しかし、これまで地方自治体には保健・医療、社会福祉、生活基盤整備など地域開発事業の経験やノウハウが不足しており、効率的な事業の実施は困難な状況でした。
そうした中、フィリピン国内で最も貧しいといわれる中部ビサヤ地域での開発計画を実現させるため、日本はJICA(国際協力事業団:当時)を通じて、99年から「セブ州地方部活性化計画」(プロジェクト方式技術協力:当時)を実施。持続可能な経済成長、貧困削減などを目標として、セブ州企画開発局(PPDO)の行政能力向上や、地域住民や現地NGOと繰り返し協議を重ねて、地域特性やニーズを的確に反映した事業を計画するなど、幅広い支援を実施しました。
プロジェクト終了後の2003年10月、JICAは評価調査団を派遣。地方開発行政システムが強化されたか、住民やNGOとの連携による持続的・効率的な地方開発メカニズムが構築されたかなどを調査しました。
その結果、67件の地域開発事業の発掘、形成、実施について、PPDOが調整役となり、町や地域コミュニティと共同して開発事業に取り組む場や機会を提供できるようになったこと、事業の形成・実施段階で州政府、町行政、NGO等が連携して事業を行えるようになったことなどが確認されました。
同プロジェクトの評価報告書では、セブ州自身によるこうした活動の継続実施の必要性が指摘されています。
「セブ州地方部活性化計画」の評価報告書
http://www.jica.go.jp/evaluation/end/2003/phi_02.html
コラム 国際協力銀行(JBIC)のフィードバックセミナー 途上国の参加でより効果的なODAを実現

現地関係者が多数参加して行われたチュニジアでのフィードバックセミナー
(写真提供:JBIC)
フィードバックの強化のために
国際協力銀行(JBIC)では、円借款事業の評価を専門に扱う「開発部開発事業評価室」をプロジェクト開発部内に設置しています。
同室では、完成後2年目のすべての円借款事業について事後評価を実施し、開発途上国の政府・開発事業実施機関、受益者、NGOなどの参加による評価結果のフィードバックセミナーを現地で開催しています。
これは、途上国側の関係者が評価プロセスに参加することで、その意見や最新のデータを取り入れ、事後評価の透明性の向上および内容の改善を図るとともに、途上国の評価能力の向上を通じて、開発事業のマネジメント体制を整備し、事業効果の発現に結びつけることを目指すものです。
問題解決に向け活発に意見交換
その一環として今年4月、チュニジアで3件の灌漑事業の評価結果に関するフィードバックセミナーを、評価対象となった灌漑事業の各サイトと首都チュニスで数回にわたって開催。同国の農業省や開発・国際協力省をはじめ、農民、NGO、教育・研究機関、援助機関など多くの関係者が参加し、活発に意見交換を行いました。
フィードバックセミナーでは、評価結果に基づき、水資源を最大限に有効に活用するため、今後の課題や対応策を議論しました。そのひとつ「水利組合管理体制の強化や灌漑技術の向上」については、受益者である農民から「灌漑に関する知識や技術が不十分なので、訓練を行ってほしい」という意見が出され、これに対し農業省が「訓練機材や移動手段などを賄う資金は不足しているが、新たに設立される水利組合に成功している事例を見学させるなどの機会を作りたい」と改善策を提言するなど、実りある議論が展開されました。
技術支援が大きなインパクトに
今後は、提言の内容を実際の行動に移していくこと、また、その成果をチュニジアのすべての灌漑事業に結びつけていくことが課題となります。
参加したチュニジアの農業省次官は「灌漑地での農業生産の目標は、2009年までに現在の35%から50%に引き上げること。セミナーで得られた教訓や提言を活用し、チュニジア全体の灌漑事業の改善につなげたい」と意欲をみせていました。
また、JBICは今回の評価を同国の農業省と合同で行い、評価技術の移転を図りました。合同評価を通じた技術支援は、対象事業のさらなる効果発現に貢献するとともに、相手国の開発事業全体にインパクトを及ぼします。効果が開発事業全体に及ぶためにも、相手国の自助努力を引き出し、より効果的な開発事業につなげていくことが重要になります。
今回のセミナーに有識者として参加した毎日新聞の今松英悦論説委員は、援助は途上国の自立への動きを促すものでなければならないこと、円借款に無償資金協力や技術協力を組み合わせることで、効果発現をより顕著なものにできること、などを指摘しています。
2005.09.26

