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【記事のご紹介】(中国特集)ジャマイカから見た中国


(一般社団法人 霞関会HPより転載)※転載許可済み
【記事のご紹介】(中国特集)ジャマイカから見た中国

筆者:在ジャマイカ日本国大使館 特命全権大使 藤原 聖也 氏


【記事のご紹介】(中国特集)ジャマイカから見た中国

1.はじめに
 ジャマイカは基本的価値を共有するパートナーであり、日本とも伝統的な友好関係を有する国だが、近年、中国のジャマイカやカリブ地域への進出が顕著となり、ジャマイカも2019年4月に一帯一路構想に署名するなどの動きがある。筆者がジャマイカに着任して1年になるが、トランプ政権の政治任用の米国大使が公開の場で中国の進出に警鐘を鳴らし、中国大使館が反論するといった事態も見られた。ジャマイカは、歴史的に英国との関係が深く、距離や文化的な近さから、米国との関係が圧倒的に強い。米国には100万人を超えるジャマイカ人コミュニティが存在し、年間200万人の観光客が米国から訪れている。この米国の裏庭と呼ばれるカリブ海の小さな島国にも、インフラや電気通信分野などで中国が進出し、米中の軋轢が生じている。このような中、本年7月には茂木外務大臣が日本の外務大臣として初めてジャマイカを訪問し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・拡大につき、ジャマイカやカリブ諸国と連携を深めることで一致したことは意義深かった。本稿では、ジャマイカにおいて、中国を巡りいかなる動きがあるのか、ジャマイカから見た中国の位置づけや今後の関係、日本として注視すべき点などにつき、私見を述べることにしたい。本稿の内容についてはあくまで筆者の見解であることをお断りしておく。

2. 中国との歴史的関係
 ジャマイカと中国の関係は長い歴史を有する。英国領だった19世紀中頃に奴隷制が廃止されると、砂糖プランテーションで働くため、中国から契約労働制の移民が入ってきたのが始まりである。1854年に香港やパナマから472人の中国人が上陸したという記録がある。その後も中国本土や周辺国から中国人移民が断続的に入ってきた。中国人移民は、1891年に中国慈善協会を設立し、小規模雑貨店などを営みながらジャマイカ社会での地位を築いていった。2011年の国勢調査によると、中国系であると答えた人は全体の0.19%、約5100人である。インド系よりも数は少ないが、政治や経済の世界で活躍している人も多い。世代が進むにつれて、ジャマイカ社会への同化が進み、中国語を話す人は少なくなり、現在の中国に批判的な人もいる。最近のインフラ工事関係で来る中国人がジャマイカ人の雇用を奪うと批判的に見られているのに対し、古くからの中国系の人はジャマイカ文化を豊かにしてくれたと評価されている。先の国勢調査によると、黒人系が92%、インド系が0.75%、混血が6.06%とアフリカ系が多いのがジャマイカの特徴であるが、中国人のジャマイカ社会への同化も、ジャマイカのモットーである、“ Out of Many, One People” (多くの出自から、一つの国民)の一翼を担っているのである。

3. 中国との太い政治的パイプ
 ジャマイカは1972年11月に中国を承認し、外交関係を開設している。カリブ地域ではガイアナに次いで2番目、日本の中国との国交正常化とほぼ同時期である。1973年にはキングストンに中国大使館が開設され、以来一貫して中国と良好な政治的関係を維持している。カリブ共同体(カリコム)には、当館が兼轄するベリーズをはじめ、台湾承認国が5つあり、中国にとっては台湾承認国を中国承認へ切り替えさせることが最大の目標であると考えられるが、カリコム最大の国であり、一つの中国政策を堅持するジャマイカは、中国にとり、カリブ諸国との関係を発展させるための橋頭保である。実際、カリコムのリーダーと目されたパターソン元首相は一つの中国政策の重要性をカリコムの場でも強調したとされる。
 ここでジャマイカの政治状況に触れておきたい。ジャマイカは、1962年の独立以来、ジャマイカ労働党(JLP)と人民国家党(PNP)の2大政党間で政権交代が行われてきた。伝統的にPNPは社会民主主義を掲げ、非同盟やカリコムとの連帯を重視したのに対し、JLPは自由主義的で、米国との関係を重視する現実的な路線をとった。冷戦時代にキューバとの外交関係を樹立し、米国と対立したのはJLP政権であり、1983年の米国のグレナダ侵攻を支持したのはPNP政権である。中国との外交関係を樹立した1970年代は進歩的と言われたPNPのマイケル・マンレー首相の時代であり、米国に先駆けて中国を承認するのが自然の選択肢だったと考えられる。しかし、1989年マンレー首相が政権に返り咲いたとき、「世界は変わった。ジャマイカは変わった。そして私も変わった。」と述べたように、冷戦後は両政党のイデオロギー色が薄れ、外交政策面で大きな違いはなくなっている。現在では、JLP、PNP両党とも、中国をジャマイカの経済発展の重要なパートナーと位置付け、要人往来等を通じ、緊密な関係を築いている。ジャマイカ外務省元高官は、筆者に対し、中国共産党は、JLP、PNP両政党とも歴史的な太いパイプを有しており、重要問題になると、そのチャネルを使って働きかけてくると述べていた。2022年はジャマイカ独立60周年、中国との外交関係開設50周年であり、中国の動向が注目される。

4. 中国との経済関係拡大
 政治関係に比べ、中国との経済関係が進展するのは中国が経済大国として台頭した2000年代に入ってからである。2005年2月に当時の曽慶紅副主席がジャマイカを訪問し、パターソン首相と第1回中国カリブ経済貿易協力フォーラムを開催したのが始まりである。それまではカリコム事務局の文書に中国の記述がなかったが、これ以降、中国は資金協力や研修員の受入れなどを通じ、インフラ整備、産業協力、農業、観光、電気通信などの分野で協力を拡大してきた。2005年にはパターソン首相が訪中し、査証協定を締結し、同年7月には北京に大使館を開設し、2009年には当時の習近平副主席がジャマイカを訪問し、英語圏カリブ初となる孔子学園を西インド諸島大学モナ・キャンパスに開設している。2013年6月には習近平主席がトリニダード・トバゴを訪問し、カリブ地域に対するインフラ整備のため、15億ドルの借款供与を打ち出し、同年8月にはシンプソン・ミラー首相が訪中し、借款などの合意に署名するなど、中国との経済関係が進展している。昨年9月の総選挙で圧勝したホルネス首相にとっても、経済成長、雇用促進が最優先課題であり、2019年に訪中し、中国国際輸入博覧会に出席するなど実利的な観点から中国との関係強化を図っている。
 一方、貿易や投資額を見ると、ジャマイカの主要な貿易、投資相手国は、米国、次いでEU等の伝統的なパートナーである。ジャマイカから見ると、中国からの輸入は増えているが、輸出が増えておらず、中国との貿易赤字拡大が問題となっている。ボーキサイト以外にこれといった資源がなく、市場も小さいジャマイカは、貿易を中心に中国との関係が拡大した南米諸国とは異なる状況である。ただ、投資分野では、中国は、近年、キングストン港管理事業体の30年間の管理や、ALPARTアルミナ工場買収など、戦略的な分野での投資を進めている。本年5月に移設した外務省の新庁舎も中国からの無償供与である。

5. インフラ分野における中国の存在感の高まり
 中国が存在感を発揮しているのはインフラ整備の分野であり、南北高速道路をはじめ、南東海岸高速道路、東西高速道路建設などの高速道路整備事業、多目的競技場、コンベンションセンター、住宅開発など幅広く建設事業を行っている。これらを実施しているのはキングストンにカリブ地域本部を構える中国港湾工程集団(CHEC)である。中国によるインフラ整備に対しては、効率的で、コストも安いと評価する声がある一方で、契約が不透明で、多数の中国人労働者受け入れが前提とされ、ジャマイカ側の雇用促進にはなっていない、環境を軽視しているといった批判がある。2016年3月に開通した南北高速道路は50年間中国側が通行料を受け取ることになっているが、一般のジャマイカ人にとって高額な通行料のため、通行車両数が伸び悩んでいるとの指摘もある。
 これらインフラ事業の多くは中国からの借款で実施されているが、ジャマイカ政府によれば、中国からの借款は全体の5%程度である。ホルネス首相は2019年の訪中時に新規の借り入れはしないと明言し、今後中国とは商業的な投資の関係に移行するとの方針である。ジャマイカはかつて債務問題で苦しんだ経験から、公的債務の増大には慎重であり、IMFも近年の公的債務削減を評価しているので、中国による「債務の罠」に陥ることはないと考えられる。
 一方、現在進行中のモンテゴベイ・バイパス建設は、ジャマイカ政府予算で実施されるが、中国のCHECが随意契約で受注したことが批判されている。今後も首都キングストンの再開発計画など重要プロジェクトが予定されているが、ジャマイカ政府は、中国の借款に頼らず、政府予算プラスPPPの手法で乗り切ろうとしており、日本としても注視していく必要がある。

6. 新型コロナ対策
 ジャマイカは新型コロナ・ウイルスについては厳しい感染対策をとり、感染拡大を抑えてきたが、本年8月にデルタ株が確認され、第3波の感染が急拡大している(本年8月の執筆時点)。このような中、各国はジャマイカへの医療分野での支援を強化しており、日本も、昨年来、医療関連機材供与やコールドチェーン整備のための「ラスト・ワン・マイル支援」など総額307万ドルの支援を行い、ジャマイカ政府から高く評価されている。現在注目されているワクチンについては、本年7月に英国が30万回分のアストロゼネカの供与を行い、更に年内に50万回分を供与する予定である。8月には米国から20万回分のファイザーが到着し、カナダも20万回分のアストラゼネカを供与するなど、伝統的なパートナーが存在感を発揮している。中国はマスクや防護服の供与などを行っているが、今のところ中国の存在感は限られている。本年7月に76,000人の在留中国人がシノファームワクチンの許可を希望しているとの記事が出ていたが、現在中国からのワクチン供与の調整が行われているようである。

7. 小島嶼・開発途上国の期待にいかに応えるか
 ジャマイカは、「国境なき記者団」の報道の自由ランキングで第7位という民主主義が定着した国であり、モンテゴベイで国連海洋法条約が署名された国でもある。したがって、航行の自由や法の支配などの問題については基本的に我々と同じ立場に立つ国である。ホルネス首相も、常々ルールに基づく秩序はジャマイカのような小国が生き残る道であり、多国間のルールに基づくシステムを支持すると言っている。一方で、ジャマイカは、奴隷制や植民地を経験し、2030年までに先進国入りを目指す小島嶼・開発途上国でもある。小国は国際社会の影響をより強く受けるため、特別かつ異なる待遇が付与されるべきであるというのがジャマイカの主張であり、日本を含む先進国がこのようなジャマイカの期待にいかに応えていくかが問われている。
 近年の中国のジャマイカやカリブ地域への進出の背景には、冷戦後、カリブ地域の戦略的な重要性が低下し、経済危機により欧米諸国の関心や開発援助が減少したため、その間隙を中国が埋めてきたという側面があることには注意が必要である。先に述べた南北高速道路も当初仏企業が実施しようとしたが、途中で撤退したため、中国が引き受けたものである。ジャマイカ側有識者には、米国は安全保障、特に、麻薬対策しか関心がなく、中国以外にジャマイカが必要とするニーズに応えてくれる国はないといった声も聞かれる。また、ジャマイカの経済発展の過程で米中間の対立に巻き込まれたくないというのが本音でもある。日本としては、基本的価値を共有する海洋国家であるジャマイカをしっかりつなぎとめるためにも、その声に耳を傾け、きめ細かく対応していくことが重要である。

8.おわりに
 日本は、ジャマイカをはじめとするカリコム諸国に対し、小島嶼・開発途上国特有の脆弱性克服を含む持続的発展のため、防災や気候変動といった分野での支援を行い、高く評価されている。先般のコロナ禍の中での茂木外務大臣のジャマイカ訪問は、中国がカリブ地域での存在感を増している中、カリコムの盟主ジャマイカとの外相会談やカリブの地で初となる日・カリコム外相会合を通じ、日本がジャマイカやカリコム諸国との関係を重視し、信頼できる真のパートナーであることを改めて示す機会となった。
 ジャマイカは、新型コロナの影響から回復し、持続可能な開発を進めるため、外国からの投資を切望しており、それに応えてくれる限り、中国であろうとどこの国であろうと歓迎している。今回の茂木大臣の訪問において、日本が、ジャマイカがカリブの要衝として進めているロジスティックス・ハブとしての経済特区開発に協力していく姿勢を示したことは、日本からの力強いメッセージと受け取られた。日本の官民が連携して経済特区開発を通じ、ジャマイカの期待に応え、経済成長、雇用創出に貢献できれば、2015年、当時の安倍総理の訪問の際に合意された日本・ジャマイカ・パートナーシップ(いわゆる「JJパートナーシップ」)を更に発展させ、自由で開かれた国際秩序におけるジャマイカとの連携を一層強固なものにできると期待される。


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